本気で好きな子を目の前にしたら何もできやしない。肝心なことは何ひとつとして云えない、その不甲斐なさをヒシヒシと身に染みて感じる。

「なまえに男ができねえこと、葦木場が心配してたぜ」
「できないできない。わたしの中の一番は雪成だし」
「…マジ?」
「マジだけど何か?」

一世一代の大告白、とは程遠い話だ。ドラマや映画のような劇的な告白を夢見ているわけではないが、どうせするなら格好をつけたいと欲を出してしまうのが男なんじゃないかと思う。告白に臨むにあたって、オレもそれなりにシュチュエーションというものを用意していた。しかし実際のところ現実は予想外の連続である。「一番は雪成」という嬉し恥ずかしい言葉が好きな子の口から出てきた。遊園地の観覧車でも、日の落ち始めた川原沿いの道でもなく、ロマンチックのカケラもない商店街のど真ん中で。けらけらと笑うなまえを見て脳みそがフル回転する。このチャンスを逃してはいけない、殆ど反射的にそんなことを思った。

「じゃあさ、付き合わねえ?」

相手の顔なんてとても観れたもんじゃなかったが、言えただけ良しとしてほしい。「付き合うかあ」こんな時までふざけた調子でなまえは言った。

とまあ、そんな感じでオレとなまえは付き合うことになったわけだが。
友達の期間があまりに長すぎたのが要因なのか何なのか、あれから三カ月が経った今も進展らしい進展はない。キスはおろか手を繋ぐこともできてないなんて、嘘だろ、中学時代の元カノのときはこんなことなかったのに。モテるという自覚はあっただけその分焦りも大きい。どうやらオレは自分が思っていた以上にヘタレだったらしい。

「あのさ、おまえくっつきすぎ」
「そう?」
「そう?じゃねーよ。もう少し周りの目を気にしろって」
「…なーんかさ、雪成最近そういうこと言うようになったよね。好きな子でもできた?」
「できるわけねえだろ!」
「そっか」

笑うなまえはきっと行動を改めるつもりなんてこれっぽっちもないんだろう。オレ背中に全体重を乗せ、オレのノートに落書きを始めたこいつを見て思う。決めた、今日こそキスしてやる。絶対だ。

有言実行のため、オレはなまえを放課後デートに誘った。なまえが観たがっていた映画を観て、カフェに入って、帰り際近くの公園に寄った。あたりはすっかり薄暗く、人通りも少ないこの辺りは雰囲気としては申し分ない。先ほど観た映画について興奮気味に話す彼女の名前を呼ぶ。疑問符を浮かべて首を傾げた、その肩に手を置き、ゆっくりと顔を、――近づけたら、掌で顔をガードされた。

「ちょっと何すんの」
「何って、キスだけど」
「は?なにそれ、そんなことしたら付き合ってるみたいじゃん」
「は?」

眉を寄せてはみたものの、目の前にある真顔を見るかぎり冗談を言っているわけでも何でもない様子だった。

「オレ告白したよな」
「え!?」
「三カ月前だよ!おまえいいって言ったじゃん!」

なまえは面食らった表情のまま滑り台のほうへ視線を流した。そして暫く考えるような仕草を見せたあと、ポンと一つ手を打ち、信じがたい台詞を口にした。

「あれ、冗談かと思ってた」

悪びれた様子もなく、飄々と。
じゃあ、なんだよ。なまえには微塵もその気がなかったのに、オレは一人勘違いをした挙句三カ月も悩んでたってことか。かああ、と恥ずかしさのあまり顔に熱が集中する。いっそ一思いに殺してくれ。沈黙の中にかける言葉なんて一つたりとも浮かんでこない。ベンチの上で体育座りを決め込んで黙りこんだままオレは口を閉ざす。もうやだ。かっこわるいとか知らねえよ。勘違いの時点で十分かっこりいよ。
そんなオレの心持ちを知ってか知らぬか、なまえは肩のあたりを軽く叩いた。…こいつ。

「わたしも好きなんだから、もっとわかりやすい告白してほしかった」
「しただろ!おまえが鈍感なだけで……、今なんて言った?」
「わたしも好きだ?」
「疑問系かよ!」
「え、ホントに好きだよ!?」
「早く言えよ!」
「告白って勇気いるんだよ!!」

冗談だと思ったのか何なのか知らねえけど、その告白をスルーしたの誰だとツッコんでやりたい。そう思い口を開くまではしてみたものの、言葉を発することはできなかった。好きとか、なんだよそれもっと早く言ってくれ。結局両想いかよ。嬉しいよりは恥ずかしさが勝る。さっきからオレ最高にかっこわるい。

「元気出してよ雪成くん」

おまえがいうな。
今度こそ言い返そうとしたら、顔をがっちりと掴まれた。なまえが笑ってる。くそ、かわいい。

「友達やめて、今この瞬間からわたしと付き合ってください」
「…オレは最初からそのつもりだったんだけど」
「拗ねないでよ」

目を逸らす。すると呆れたふうに息を吐き出したなまえが、おもむろに顔を近づけてきた。唇の端に唇が触れて、ああもう何でオレ反射的に顔をずらしたんだと心底後悔した。



20140310
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