好きだという言葉に含まれる意味は決して一つではないと思う。青色が好き、家族が好き、友達が好き、彼が好き。こうして押し並べてみても「好き」の形はたくさんあるわけで、だからと言って何だということじゃあないけれど。ただ唐突に、彼がとあることを口にしたから、ふと生産性のない思考が頭を過ったのだ。
「お前は自分を分かって肯定してくれるおれが好きなんだよ。」
 とある昼下がりのことだ。いつものようにぼんやりと、彼の部屋でテレビを見ながら過ごしていた。彼は私には到底理解できないであろう「営業ルールのすべて」などという分厚い本に目を落としたまま、何の前触れもなく、しかしいつもと変わらないトーンで声を発した。頭の中に渦巻く思考が無意識的に声に出てしまったのか、あるいは意図的に口にしたのか。どちらとも知らないが、私は特に驚くこともせず。テレビの声を受け流しつつ、やはりぼんやりと頭を動かしていた。
 彼とは付き合って2年になる。出会いこそ単純なものだったし、付き合うことになった経緯も普通だったと思う。情熱的な感情も劇的なドラマもそこにはない。例えるなら、さながら引かれたレールの上をゆるりと歩くように。そうなることが予め決められていたかのように、自然な流れで私達はお互いに手を伸ばしていた。出逢ってから今まで、それなりにたくさんのことがあったように思えるが、よくもまあここまで付き合って来られたなというのが本音だ。いや、今の言葉には語弊がある。よくもまあ私みたいな面倒な女に愛想を尽かさず2年間もやってこられたな――と、言うのが最もな言葉だろう。
 さて、脱線した思考を元に戻すとしよう。カップル、恋人など呼ばれている世の中の男女は、果たして本当にお互いを理解しあっているのだろうか。理由もなく自身に問いかけてはみたものの、やはり答えは出ない。強いて答えを出すとすれば否、だ。事実私は彼の考えを、思考を、想いを、その断片たりとも理解できていないと思う。今彼が何を考え、何を感じているのか私には到底理解し得ない。しかし彼は断言した。私は、私を分かって肯定してくれる彼を好いているのだと。
「そうかもしれないけど」
 私はひとつ呼吸を置いて、天井に散らばる言葉を探す。そう、言葉遊びだ。分かりもしない心の中を弄るような、漁るような、探すような。ただ一つの答えを見つけたいがための、足掻き。
「私を分かって認めてくれる人なら誰でもいいわけじゃないよ」
 いくら頭で考えようとも、私は彼を理解できないし、おそらく、彼も私を完全に理解しているわけではない。例え彼が私を理解していると、そう感じていたとしても、それはきっと錯覚なんだろう。世の中のカップルや恋人と呼ばれる男女も、お互いを理解していると錯覚している、それだけに過ぎないのだ。クサイ恋愛ソングみたいに好きなところを10個押し並べることはできないし、そんな無知で、馬鹿らしいことをしたいとも思わない。ただひとつ、唯一の確信があればいい。ふと、そんなことを思って口を開いた。
「好きじゃなきゃ一緒にいないよ」
「は、」
 驚いたような声を出した彼は、私の方を見て目を見開いていた。しばらく衝突して、弾かれるように逸らされた瞳。ほんのり赤くなった耳に、珍しいこともあるもんだと思うと少し笑えた。



20160601
殴りもいいところだ りはびり〜
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