普通に平凡総じて月並み。何の取り柄もないわたしだが、一応のこと彼氏というものはいたりする。彼は部員でわたしはマネージャーだ。部の雰囲気がギクシャクするといけないから内緒にしておこうと、付き合う時にこっそり約束をした。だからみんなには内緒。ヒヤヒヤどきどき秘密の関係、とでも言っておく。

「やーすとーもくんっ」

中庭で寝転んでいる彼を呼ぶと、その片目がうっすらと開いた。眠たそうな声で呟かれたわたしの名前。それがやけに胸のあたりを擽って、わたしは衝動的にキスを落としていた。

「てめっ、学校ではヤメろつったろ!」
「だって寝顔可愛かったんだもん」
「か、わいくねーよ、」

可愛い可愛い。口元を手で覆った向こう側には真っ赤に染まった顔が覗いている。靖友の六割は可愛いでできていると思う。あとの四割はたまに見せてくれるかっこいい部分だ。ひとりで二度おいしい。なにそれわたしの彼氏最強すぎる。おかげで毎日がハッピー、気分は上々だ。
人間幸せだと実感するだけで仕事も捗る。乾いた洗濯物をたたんでロッカーに仕舞おうと部室へ向かったら、扉の向こうからこんな声が聞こえてきた。

「年貢の納め時だぞ荒北!さあ吐くんだ!この山神の目はごまかせんぞ!?」

なるほど面白い話の予感がする。ノックをして向こうの声を聞いたわたしは、弛む頬もお構いなしにドアノブをひねった。

「なんの話?」
「なまえ!おまえも聞きたいだろう?荒北の彼女の話だ」
「かの、じょ、」
「そうだろそうだろ!まさか荒北に付き合っている女子がいるなんてな!オレも驚いた!日頃の行いが行いだから仕方あるまいよ」

暴露たのかと思って驚いたがそうでもないらしい。東堂くんは先日、靖友が中庭で茶髪の女子とキスをしているのを目撃したそうだ。遠目だったため何処の誰とまでは検討がつかなかったが、その女子は丁度わたしくらいの髪色でわたしくらいの長さの髪を下の方で結っていたのだと言う。身長も丁度わたしくらいだと言って騒ぐ東堂くんが目撃者で本当に助かった。東堂くんが鈍感な人種で本当によかった有難う。それはわたしだと冗談でも言えるはずもなく、その場しのぎのために笑った声は東堂くんの笑い声と重なる。それにしてもまさか見られていたとは。周りを確認したつもりだったけど、わからないものだ、今度から気をつけよう。

「さあさあさあ諦めて教えろ荒北!オレたちとおまえの仲ではないか!」
「ウッぜェな…!」

詰め寄る東堂くんに、靖友は心底鬱陶しいといったように顔を歪めた。しかしあまりの煩さに痺れを切らしたのだろう。大きな溜め息をついた靖友は、しかしわたしのほうを見向きもせずに口を開いた。

「うるせえやつだよ。人の話聞かねーしメンドくせーし空気読めねーバカ女」

自分の頬がピクリと引きつるのを感じた。目の前に本人がいるというのになんて酷い言い様だろう。わたしは沸点が高いほうではない。そこそこと、否かなりムカついたので、できる限りの笑顔を保ちながらも言葉を返すことにした。

「へー…その子なかなか最悪じゃん。そこまでボロクソ言うなら別れればいくない?何でそんな子と付き合ってんの?」
「…そりゃあ、そういうとこ引っくるめて可愛いとか思っちまうからじゃナイ?」
「へ、」

フイと顔をそらす。わたしはそうしてとんでもないことを言ってのけた彼に対し、何とも間抜けな声を上げることしかできなかった。話題をふっかけた東堂くんだってポカンとしている。そりゃそうだ。靖友が他人のことをそういうふうに言うなんて、よもや天地がひっくり返ってもありえはしないとたかをくくっていたから。

「ぶはっ、おめさんも隅に置けねーな靖友、…ぶっ、」
「…新開てめえはあとで話があるツラ貸せコラ」
「そ、そうか…そうか!つまりベタ惚れということだな荒北よ!ところでその女子の名前はなんというんだ?ここはおまえの友人としてひとつ挨拶に伺いたいのだが」
「うっせーな!しなくていっつの!さっさと練習すンぞボケナス!」

靖友は東堂くんと新開くんの背中を押して部室を出て行こうとする。扉の手前、飽きずその場で固まっていたわたしと靖友の視線がかち合った。靖友はちらりと二人の姿を確認してから、「バァカ」口パクでそう言ってからわたしの頭をぐしゃぐしゃとやった。え、なに今の顔ズルイさっきの言葉だって反則だ。おかげで、ほら、しばらく顔の熱は引きそうにないし、理性に反してにまりとだらしなく弛む口元も当分治りそうにない。これから部活だというのに一体どんな顔をして行けばいいんだ。彼にタオルを渡すとき、わたしは穏やかに平常心を保っていられる自信がない。手のひらで触れた皮膚は首のあたりまでじんわりと熱かった。



20140125
20140824 加筆修正・再録
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