全てが終わって彼らが帰ってきたときは、泣き崩れてしまいそうなくらいの喜びで胸が痛かった。









過去の世界へと帰って行った光を見送ったあと、獄寺がふと気付いたように口を開いた。「10代目は?」さすが沢田の右腕と言われる男だ。関心しながらも私は特に何も口にはせず、ただ人差し指を左に向ける。獄寺は指差した方角へと視線を流してから、「お一人でか」なんとも不機嫌そうに呟いた。あんなことがあった後だ。全てが終わって現在が書き換えられたとはいえ、ボスである沢田を一人にさせるのは私としても本望ではない。しかしまぁ、右腕が駆けつけるならあえて私が向かう必要もないだろう。すっかり元の姿に戻った守護者たちを見ると、それぞれが好き勝手別々のことをしていた。全く本当にまとまりのない、なんて個性豊かな面子だろう。いつもの黄色い鳥を肩に乗せ、さっさとどこかへ歩いて行ってしまった雲雀の後ろ姿を見つけ思わず笑みを零す。
また別の方向に顔を向ければ、ばちんと視線同士がぶつかった。「どうした?」どうしたもなにも、見ていたのはそっちだろうに。悪態の一つでも吐いてやろうと思って口を開きかけた、けど、うまく言葉にすることができなかった。多分、言いたいことがたくさんありすぎたのだ。身体は大丈夫なのかとか、辛くないかとか、会いたかった、とか。伝えたいことがありすぎてとても言葉にできなかった。
上手い言葉を探して視線を泳がせていると、そんな私の中の動揺に気付いたのか山本は突然笑い出した。全身の熱が上がって、自分の顔が真っ赤に染まるのが分かる。どうしてこういう時キマらないんだ、私は。自分の不甲斐なさにいっそ呆れて、私はその場にしゃがみこんだ。足音が近づいてくる。彼は、きっと眩しいくらいの笑顔を浮かべながらそれを口にしたのだろう。

「ただいま」

顔を上げると、想像通り、見慣れた表情がそこにあった。同じようにしゃがみこんだ山本は容赦無く私の頭を掻き乱す。大きなてのひら。その感覚が、体温が、何だかとても懐かしいもののような気がした。そのせいだ。そうじゃなかったら、こんなものが頬を伝うはずがない。「大丈夫ですか?」心配そうに近づいてきたランボが訊ねる。その後ろにはずっと会いたかった人たちがいて、彼らの温もりを感じたら、もう涙は止まってくれなかった。

「一人にして悪かった」

恐怖を感じたのは随分と久しぶりのことだったのだ。拳銃を向けられたことより、ナイフで切られたところから血が出ることより、何よりも怖くて痛かった。もしかしたらもう会えないかもしれない。嫌な考えが何度も頭をよぎったし、何度も泣き出しそうになった。それでも必死に繋ぎとめた。沢田が、私たちの信じたボスが、未来に繋ごうとした希望を無駄にしないように。またみんなに、あんたに、会うために。

「おかえりなさい」
「ああ、ただいま」

寂しかった、怖かった、なんて。口をついて出たのはとんだ我儘だったのに山本はしっかりと返事を返してくれた。涙を拭っていた手のひらが頬へと移る。もう一度視線がぶつかって、えっと、これは。「てめっ、山本ぉ!!」とまあ、遠くのほうから獄寺の声が響いたときにはとっくに唇は奪われていたわけで。名残惜しくも離れた熱に触れると、少し遅れて心臓がドクンと大きく揺れた。



20140831
未来編読破後の勢いです。
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