聞きたいこと。聞けてしまえばきっと胸の中の痞えは取れて楽になるのに、聞けないことがある。ずっと前から知りたいこと。たった一つ、自分の中には存在しない答えを無意味に探している。それはまるで出口のない迷路の中をひたすらに彷徨っているようで、たまに目を背けてしゃがみ込みたくなるときだって。
――ねえ、なまえさん。なまえさんはオレのこと、どう思ってる?

「ん…なまえさん?」
「真波くん、まさかとは思うけど午前中ずっとこんなところにいたの?」
「おはようございます」
「もうお昼だよ」

うっすらと目を開けると、日差しよりも先にキレイな顔が飛び込んできた。ドキリとしたのは秘密。この気持ちはまだ自分だけのものにしておくつもりです。
オレのことを探して校内を回ってしまったと呟くなまえさんは、眉を下げて、困ったように笑った。そういえば今日は昼休みに部活の集まりがあるって、今朝荒北さんと新開さんが話していたような気がする。校舎にくっついた時計を見る。不釣り合いな針が正午を指し示していることを確認しなくても、辺りに響く声や足音のせいで今が既に昼休みだということは明確だった。
早く立つよう急かすなまえさんに向かってオレは両手を伸ばした。すると、あの表情とともに溜息が一つ薄い唇から漏れ出す。「自分で立てるでしょ」呆れ顔。だけどいつだってなまえさんはオレの手をとって自分の方に引き寄せてくれるから、それに甘えてしまう。
漸く立ち上がって制服についた草やら砂やらを叩き落とした。ここに来て初めて空を見上げると、入道雲がふわふわと青の中を漂っていて。カラッとした暑さ。もうじき夏が終わりを告げて秋がやってくるのだと思うと、底知れない寂しさを感じた。

「ご飯食べた?」
「…あ、まだです」
「じゃあ教室寄ってから行こっか。あ、それとも購買?」
「なまえさんのお弁当が食べたいなぁ」
「私のご飯取るつもりですか」
「だってとっても美味しいから、」

手を引かれて校舎に入ると、下駄箱のところで荒北さんと遭遇した。荒北さんの手にはそこの購買で買ったらしい惣菜パンが山ほど詰められた紙袋が握られていた。

「おまえ弁当忘れてんぞ」
「えっ、あ、ほんとだ。持ってたつもりでいたのに」
「バァカいーから早くしろ。福ちゃんずっと待ってんだヨ」

荒北さんは紙袋の中から適当なパンをいくつか掴み取って、お弁当の包みと一緒になまえさんに手渡した。それは全部オレが好きなものだったけど、仲良く話している二人を後ろから見ていたら、また心臓がチクリと痛んだ。

「靖友が買ってきてくれたからこれでいい?寝ちゃだめだよ」

心臓が痛い。オレ、病気かな。
荒北さんの後に続くようにして、教室に入っていこうとする背中を引き止める。行かないで、と。咄嗟に掴んだ手は驚いたように震えた。オレは右手に弱々しいくらいの力を込めて、顔には上っ面だけの笑顔を貼り付けて口を開く。

「じゃあなまえさん、隣にいて。そしたらオレ寝ないから」
「ほんと?」
「ほんとだよ」

なまえさんはキレイに笑って頷いてくれた。あとで東堂さんに言われちゃうな。あまりマネージャーを困らせるなって。

「もう、また寝てた」
「あはは、ごめんなさい」
「授業聞かないで補修になっても、私は教えてあげられないからね」
「なまえさん勉強できるって東堂さんから聞いたよ。だから、教えてください」
「だから、まずは授業でしょ」

でもね、東堂さん。オレはなまえさんのことが好きだから、困らせて悲しい顔をさせたいわけじゃあないんだ。我が儘で面倒のかかる後輩だって、そう思ってもらえれば、なまえさんはオレのことを見てくれるでしょ。それがたとえ仕方なくでも構わない。なまえさんは優しいから、手のかかる後輩を放っておけないの、知っているから。
どうかあと一つだけ我が儘を言わせてください。オレはあなたの特別になりたい。



20140827
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