(恋のけぶりの番外編、黒田くん視点のお話を書いていただきました)
(素敵なお話をありがとうございます!)
しくじった。
何をかって、あいつの件だ。
前から荒北さんが好きだったのは知っていた。
恋愛マスターとか言われて…、まぁ今思えばそれからして間違いだったのだ。
相談に乗るテイであいつの隣をキープしておきつつ、このザマである。とんだピエロだ。
自分の想いさえ叶えられずに何が恋愛マスターだ。
だがしかしあのバカは「さっすが恋愛マスターです!マスターも頑張ってください!」などと抜かしやがる。皮肉もいいところだ。
とにかく荒北さんがあいつを煙たがって跳ね除けることを願うばかり…いや、これは本当は抱いてはいけない邪な考えであるが。
でもこうなってしまった以上はただただ想い人の不幸を願うばかりである。
と、そんなところでだ。相手はあの荒北靖友。恋沙汰でもあるのだが相手が相手なため、これは男の意地でもある。
虎視眈々と付け入る隙を狙う…と、噂をすればだ。
「荒北先輩!好きです!!!」
「あっそォ」
なんとも腹が立つ会話だ。
何故部活以外でもこんなにあの人にコンプレックスを刺激されねばいけないのか。
自分でも情けないと思うがどこで出て行けばいいのかベストなタイミングを見計らう。
余りにも間抜けすぎて自分を俯瞰すると死にたい気分になるためここは邪念を振り払って場に集中した。
「荒北先輩!今度デートしてください!」
あいつも懲りない奴である。そしてこの発言がブーメランであることは百も承知だ。
しかし羨ましすぎる。こんな欲望丸出しだったらそもそも恋愛マスターだなんて名乗って先輩風吹かしつつアドバイス(下心含む)ができないため余裕綽々なフリをしているが、羨ましいものは羨ましい。
さぁ断れ!そしてオレが颯爽とその場を…
「…まァいいけどォ?」
は?
いやいやいやいや、そんな素振り今まで見せてなかっただろ!?
そこを断ってくれないと出るに出ていけない上にあいつが「マスター…また断られちゃいました」とかって相談してくれなく…
いや、
なんだこれ…オレ…気持ち悪いな…
「ン?ヨォ黒田」
「…ッス」
なんてタイミングで…目が合ってしまった。
荒北さんの隣でキョトンとするあいつとも。
居心地が悪い。悪すぎる。
立ち尽くして怪訝な顔をする相手にモゴモゴと言い訳を連ねつつ、もう二人がいるところに首を突っ込むまいと固く誓うのであった。
あぁもう、こんなはずじゃなかった
早く気づけバーカ!
The Melancholy of Love Master
─Not In My Back Yard!