※見方によっては死ネタです
※タイトルの通り、地球最後の日が来るというありがちな話



今日も今日とて太陽の日差しはあり得ないほど強い。灼熱の都会はゲリラ豪雨に見回れているそうだ。ブラウン管の向こう側で世界の状況を告げるレポーターは、ここ最近、自棄に必死になっている。そう感じながら、私はリモコンを操作することもなくコンセントを引き抜いた。電化製品は敵である。熱を発するものをそのままにしておくことは、現状をさらに悪化させることに同じだ。
温度計が38度を示したまま、実に五日が経過。豪雨がこの地域に達するのもそう遠くはないだろう。そう言えば、かの創造者とやらはたった七日間で世界を作り上げたのだと言うが、はて、彼あるいは彼女は世界が――この地球という青く美しい星がこうなってしまうこと、それさえも手の内に納めていたのだろうか。そうだとしたら、まったくどうにも無意味だ。否、その無意味にこそ意味があると考えるならば、話は堂々巡りで留まることこそないのだが。

「おい、らしくねェこと考えんな」

らしくない?過去を思うことが?それとも、まさかこの男は、私が後悔の念に駈られているとでも思っているのだろうか。ありえない、違う、彼はきっとこう言いたいのだ。
私がが早々に諦めるなんて、らしくもないな、と。

「らしくなかった、だよ」
「細けえヨ」
「だって、もう諦める諦めないの段階じゃない。だからこその、らしくなかった」

いかなる科学も、頭脳も、祈りも願いも届きはしなかった。自然の力には勝てはしない。例え明日、爆撃の如き豪雨が直撃しようとも、私たちには抗う術もなければ抗わんとする牙もない。根こそぎ抜かれてしまった。ただの腑抜けになってしまった。
そうだ、思い出した。そう遠くはない、そう、この星が危ないと世間が騒ぎ出したのは三か月前。家族、友人、その多くが東の方角へと逃げて行ったのは一か月ほど前のことだ。世界はおよそ考えられる手を尽くしたが全ては水泡に帰した。
私自身はというと、正直な感想を口にするならば、肩の荷が降りたように感じたと言うが正しい。それまでの生き方が辛かったとか、苦しかったとか、そういった感情は微塵もなかったのに。ああ、もういいのかと、呆けたような安心を得た。
少しでも長く共にと、東のほうに走っていった人々を思いながら考える。考えるが、腑抜けになった私に思うことなどありはしない。薄暗くなってきた空の向こう側に、全てを引っくり返すヒーローを期待することもない。不安も期待も皆無。ただ強いてあるとすれば、腑抜けに似合いの甘ったるい感情のみ。

「すき」
「だから、らしくねえつってんの」
「うわ、詰まんなそうな顔」

手前の一言とは対照的な声を吐けば、こちらを睨み付けた瞳が距離を縮めてきた。寸止め。睨み合いにも似た、それ。

「ねえ、はやく」

もっと近づいてよく見てよく噛んで味わって。たまには、今くらい、欲張ったっていいと思う。素直に求めたってバチは当たらないはずだ。来るかどうかもわからない明日にやる気持ちなんて、此処にはない。
唇の熱が遠ざかった。重なった指は腑抜けた私からさらに感情を抜き取っていく。一体どこまで堕ちる。地球最後の日までにどうにかなってしまいそうだ。

「明日も会えるかな」
「ハッ、どうだか」
「別に会えなくてもいいよね」

背負うものは何一つとして手放した今、私はこの男との今以外何もいらない。けれど、彼は地球最後の日、一体何を思うのだろう。ここに私と残ったことを後悔するだろうか。たった一人の女より、東へ向かった家族や友人を想うのだろうか。わかりはしない。いくら想ってても、無論思考を読むことは不可能だ。けれど。

「……黙れ」

心の声が漏れていたわけでは決してなかった。しかし、少し上で響いた低い声は確かに的を射ており。

「面倒なこと考えてる暇あんなら、しがみついてろ。なんなら言ってやるよ。お前以外何の価値もねえってな」

嗚呼、全く以て、本当に、如何してこうも。どうしてこうも不味くて笑えない夢みたいに狂おしく愛おしいのか。



20140821
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