拝啓、大佐殿。
肌寒い季節が過ぎて夏の匂い漂う今日この頃ではありますが、さて、いかがお過ごしでしょうか。私がそちらを出発してから早X年が経とうとしております。ご存知の通り、地球の一年はそちらの一年よりも緩やかです。初めこそ体調ばかりを崩していた私ですが、おかげさまで今は問題なく過ごしています。身体というものはうまく適応していくのですね。大佐は体調を崩したりしていませんか?おまえはオレのかーちゃんかと言われそうなところですが、夏だからってお腹丸出しで寝たらいけませんよ。

「なんで東堂さんがいるんですか!今日はマイダーリンの帰国日!お呼びじゃないです!」
「オレだって巻ちゃんに会いたいんだ!少しくらいいいだろう!」
「そんなこといって先月イギリス飛んでったのはどこのどいつですか!」

私は地球の人間から見ると所謂宇宙人という存在だったりする。見た目は人間とほぼ同一個体なため、上手くこの星に溶け込んでいる。
私たちの種族は宇宙のあらゆる星を転々としながら生きてきた。母星を守ろうと奮闘する生物が殆どであったから、必然的に私たちは戦闘種族として発展を遂げて来た。生きるものを根絶やしにし、星を乗っ取り、その星に住めなくなったらまた次の標的を探すのだ。どの星も驚くほどに寿命が短かった。だから地球という星を見つけたときは、こんな寿命が長く美しい星が存在していたことに驚きを隠せなかった。
私たちの種族はすぐさま侵略計画を立てることにした。そのためにはまず地球に潜入し、情報を集める必要があった。未知の星だ。どんな生物が住んでいるのか、文明の発達は、脅威となる武器は、私たちが住める環境であるのか。それらを知らずして侵略など不可能に決まっている。そして惑星年月にしておよそX年前、幹部である私には重大司令が下された。スパイとして地球に赴き、必要な情報を得てくるといったものだった。

一人でこの星で生活していくつもりだったし、やることをやってさっさと星に帰る予定でいた。しかし日本というところは恐ろしい場所だった。まず私くらいの年齢の人間は学校という場所に行かなければならなかった。学び舎というから軍の訓練でもうけるのかと思いきや、1日の大半は机に張り付いて老いぼれの話を聞かねばならないという地獄のような場所だった。勉学は学生の本分である。そう教えを説きながら、放課後は身体を動かすことを強制されるのだから矛盾もいいところだ。
右も左も分からない私を助けてくれたのは同級生たちだった。自分たちの星がいつぞや侵略されることなどつゆ知らず、彼らは侵略者である私に色々な知識を分け与えてくれた。勉学はほどほどに、部活は楽しく、高校生なんだから恋でも一つ。クソ真面目な私はその言葉通りに三年間の学生生活を送った。そして卒業する頃には何故か恋人が一人できていて、彼が他国に留学することになったときはボロボロと涙したわけだが。

「くぉら巻ちゃん!他人のフリとは何事だ!」
「めんどくせェ…どこのどなたか存じませんが人違いっショ」
「わっはっは!ライバルであるオレがお前を見間違えるはずがないだろう」
「つーか何でお前がいるんだァ?オレが今日帰るって伝えたの、なまえだけっショ。帰れ」
「そりゃないぜ巻ちゃん!」

どうしてこうなったんだろう。友達も、ましてや恋人なんか作る気はさらさらなかったのに。
X年前の私は想像だにしていなかったに決まっている。会えない毎日が辛いと思える恋人に出会って、数年ぶりに再会して、何て声をかけたらいいんだろうなんて、乙女チックな考えを巡らせているなどと。

「あー…何だ、久しぶりっショ」
「う、うん、久しぶり」
「……」
「…なに話していいかわからないね」
「まあ、結構通話してたしなァ。今更話すこともないっショ」
「とりあえず、おかえり」
「ん、ただいま」

完全に地球という星に絆されている。そんな思考さえも浮かばないようになったのはいつからだろう、とか、多分そんなことはどうだっていいんだ。恋は人をダメにする。そんなの、この星でもあの星でも、母星でも地球でもおんなじことだった。

「祐介くん、もしわたしが悪魔とか死神とか、大魔王とか宇宙から来た侵略者とかだったらどうする?」

久しぶりすぎるディナーは夜景の見えるレストランにて。
雰囲気にそぐわない会話を投げた私に、祐介くんは特徴的な笑い声を漏らした。

「ついに頭イッたか」
「いたって真面目です。答えてください」

そう、いたって真面目なのです。私はそろそろ大佐に手紙を書かなくちゃいけなくて、そろそろ星に帰らないと怒られてしまうどころか撃ち殺されてもおかしくない立場の軍人だから、

「別にいいっショ」
「いいって?」
「おまえが天使でも悪魔でも死神でも、世界を滅ぼしに来た閻魔大王でも宇宙人でも、別に何でもいい」
「得体の知れない生物でも?」
「電波でもアホでもドジでも好きなもんは好きだからなァ」

宇宙人にだってしんぞうはある。しんぞう、今キュンって音を立てた。私は侵略者で、祐介くんの敵で、なのに今私は彼の赤らんだ頬がたまらなく愛おしかったりして。

「今のナシ」
「祐介くんたまに恥ずかしいこと平気で言うよね」

大佐、話の続きですけども、これをもって私からの調査報告は終了とさせていただきます。何かもう侵略とかどうでもいいです。地球年月にしておおよそ五年、惑星年月にしておおよそX年、本来の目的を思い出すには些か時間が経ちすぎました。私、軍人やめます。大佐を引き摺り下ろしてその席をいただくことが私の野望でありましたが、この度新しい夢ができました。地球人のお嫁さんになることです。祐介くんっていって、すごく素敵な方なんですよ。大佐にも見せたかったです。ごめんなさい、大佐。私がいなくなっても優秀な人材は腐る程いると思うので、どうぞその方たちとともに別の星を探してください。
地球はとても平和な星です。今日も何処かで愛が、新しい命が誕生しているんだと思います。大佐も早いところいい人見つけるといいです。まずはお腹出して寝るの、やめましょうね。それでは、また会える日まで!敬具



20140721
bgm バーモンドキッス
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