この赤頭のチビとは気が合わないというか反りが合わないというか、否、もはやそれ以前の問題だろう。馴れ合いってもんを好まないオレにとって、この状況は面倒事以外の何物でもない。

「なんやなんや!?見せられへんもん待ち受けにしとるんか、やらしいなスカシくんは〜」

ニヤニヤと下衆い笑みを携えた赤頭に肘で突つかれる。オレは青筋を浮かべて、携帯電話をもつ手に力を込めた。こいつがチビで本当によかった、と内心安堵する。たとえ手を伸ばしたところで、掲げた右手には指先だって届きやしない。跳ねたって無駄だ。諦めろ。

「見せや」
「嫌だ」

見せてたまるか。人には見せられないもんを待ち受けにしてることは認めるが、鳴子が思っているような代物じゃないことを断っておく。オレは巻島さんじゃないんだ。肌の露出の多い女優なんて待ち受けにしたところで、面白くも何ともない。

「今泉がどうかしたっショ?」
「わっ、巻島さん!」

突然の本人の登場に動揺して、思わず掲げていた右手を下げてしまった。「え!?」この場に似つかわしくない、驚いた声が響く。オレと鳴子はほとんど一斉に声のした方を振り返った。そこには、気まずそうに天井やら壁やらに目を泳がせる小野田の姿があり。してやったりと笑う鳴子とは反対に、顔から、サーという効果音さながら血の気が引いて行くのがわかった。

「ごめん今泉くん…」
「見たんだな…?」
「なんやったん?こっそり教えてや、ワイと小野田くんの仲やろ」
「で、でも今泉くん嫌がってるし…友達が嫌がることはしないほうが、」
「この前見たい言うてた映画一緒見にいこうや」
「みょうじさんの寝顔だったよ」
「おま…っ、小野田!!」
「ドヒャー!ごっ、ごめんね今泉くん!あのアニメは名作なんだけど映画化はないだろうってずっと言われてて…!」

そこじゃない。地球を侵略しにきたエイリアンたちと戦う美少女アニメが映画化したとか、ラインナップが豪華だとか、公開日入場者には限定品が配られるだとか、そんなことはどうだっていいんだ。顔面蒼白のまま動きを止めていると、ここぞとばかりに鳴子に携帯電話をスられた。奪い返そうと伸ばした手は空を切り、携帯電話は鳴子から巻島さんに手渡される。ふざけるな。

「なかなか大胆やなスカシ」
「クハ、おまえも隅に置けねェな」

見られた、その事実を再認識した途端顔に熱が集まった。さらに追い打ちをかけるように部室の扉が開く。賑やかだな、と笑った田所さんは巻島さんに問いかけた。

「何だ?食い物の話か?」
「いや何でだよ。今泉の携帯の待ち受けが好きな女子の写真だって話っショ」
「どうして言うんですか!?」
「よく今泉の応援に来てる…名前なんつったか」
「なまえじゃなかったか?」

なんで知ってんですか金城さん。しかもオレに同意を求めないでください、頼みますから。何も言えずに黙りこくっていると扉をノックする音が聞こえた。何だ、次は誰だ。杉元だったら勘弁してくれ、もうこれ以上茶化されるのは懲り懲りなんだ。
金城さんが開けたらしい扉の向こうから「こんにちは」とソプラノトーンの声がした。聞き覚えのあるそれに顔を上げる。ひらひらと手を振るなまえの姿に、ドキリだかギクリだか、とにかく心臓が煩く音を立てた。

「練習の前にこれ渡そうと思ったんだけど…あ、もしかしてもう練習始まってる?」
「始まってへん始まってへん!」
「あー!今泉くん!教室に忘れ物とかしてない?してるよね?」
「お、おまえら押すな!」

ぐいぐいと背中を押されて、まるで部室から追い出されるようにしてなまえの前に立たされる。仲良しだね、と笑うなまえは何も分かってないんだろう。いや、分かんなくていい。まだオレはこの気持ちを伝えるつもりはないから。

「ゆっくりでいいぞ、今泉」
「…お気遣いどーも!」

多少トゲのある言い方になったが、仕方のないことだと思う。勢いよく閉めた扉の向こうでは今頃、鳴子あたりが腹を抱えて笑っているに違いない。悪かったな。オレだってなりたくてなってんじゃねーよ、不可抗力だ。

「今泉くん、顔赤いよ?」
「…不可抗力だ」
「ふか…?」



20140628
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