一体何をどうしたら正解だったのだろうか。どんな出会い方をして、どんなふうに距離を縮めて、何と声をかければよかったのだろうか。
自惚れを知ったのはつい数週間前のことだ。どこか熱っぽい視線の先にいるあの子は、今日もキラキラとした空気を身に纏っているような気がする。通学路や全校朝礼、休み時間の廊下、授業中、そして放課後。気付けばわたしは一日中あの子の姿ばかりを見つめていて、その度にどんよりとした感情を抱いては二酸化炭素を吐き出している。
わたしはあいつが好きで、あいつはあの子が好き。単純明快な関係性のはずなのに心の中はスッキリとしない。まるで澄んだ水の中にドス黒い墨汁を垂らしこんだような、そんな心持ちである。

「どこが好きなの?」

真っ直ぐに向かう視線を遮るかのように、その黒目覗き込んでみた。頬杖をついていた荒北の眉間に皺が寄る。気だるげに挙げられた右手がシッシッとわたしを追い払った。
つれないな。態とらしく口を尖らせながら後ろの席についたけれど、相変わらず視線は交わらなかった。

「それ聞いてどーすんの」
「どうもしないけど。荒北が好きになるってどんな子かなって、気になっただけ」
「てめえ声がでけーんだヨ」
「あっはっは」

こんなに騒がしい教室だ。でかい声で「声がでかい」と言ったところで喧騒の中に溶け込むだけ、わたしの乾いた笑い声だって然程届いていないに違いない。

「やめといたほうがいいんじゃないかな」
「何がだよ」
「あの子、年上の彼氏がいるって」
「ハッ、たかが噂だろ」
「しかもイケメン好きで童貞はお断りだって」
「…おまえ何なの」
「ねえ、やめときなよ」

バチリと視線がかち合った。
どうやら、今、自分がどんな顔をしているかわかっていなかったみたいだ。ぎょっとしたような荒北の表情が何よりの証拠だろう。
わたしは居た堪れなくなって逃げるように視線を逸らした。逃げるならとことん逃げ切ればいいのに。冗談だと言って誤魔化してしまえばよかったのに。

「わたしにしなよ」

往生際の悪い口は消え入りそうなくらい小さな声で、心の底に居座る本音を紡いでしまっていた。
ねえ、荒北。いいこと教えてあげよっか。あの子ね、たまにあんたのこと見てるんだよ。多分ね、これはわたしの想像だけど、あの子も、きっとわたしと同じ気持ちなんだよ。
悔しいなあ。喉先まで上がってきた言葉を無理矢理に飲み込んで、口を閉ざした。水の中に黒い感情が広がって、やがて真っ黒に染まる。辛い、悲しいと、泣いてしまえば汚い心は洗われただろうに。口先から漏れたのは嘲笑にも似た笑いだった。

20140525
bgm アスパラ/aiko
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