朝とプリズム


図書室の白いテーブルに頬杖をついて彼を眺める、よく見たら小さく頭を揺らし
ていた。きっと光の頭には遠いバンドの知らない曲が流れているんだろうなあ。
こういうとき、あたしはちょっと寂しくなる。

光は図書委員で、たまーに朝の当番が回ってくるらしい。あたしはそれに着いて
きただけで、別に仕事があるじゃない(押し付けられたりはするけど光に!)。隣
の席に座らせたスクールバッグから新発売だった飴の袋を取り出して、摘み上げ
た2つのうち片方は自分の口に放り込んだ。


「光ー」
「ん」
「はい」


赤い苺味の飴を投げる、少し危なげに孤を描いたそれを光は片手に収めた。かさ
、って小さくセロハンが擦れる音。しばらく赤い光沢の袋を見てから、光はフン
と鼻を鳴らした。失礼な。でも知ってるんだ、生意気でスカしてるけど実は甘い
ものが好きっていう可愛い一面。あー、なんか思い出したらにやけてきた。


「なまえ先輩」
「なにー」
「もう帰ったらどうですかー」
「なんで」
「何でもあらへん」


教室のある階は違うけど一緒に帰ろうと思ったのになんで。そう思って口を尖ら
せると、光はあたしの方に向けてた顔をふいっと手元に落とした。意味わかんな
いよもう。ふっとなんとなく息をついて窓の方に視線を向けた。

真っさらなカーテンが全開にした窓から吹いてくる風に踊らされていて、気持ち
がふわふわする。今日は暖かくて春みたいな風だからか寒がりな光もなんにも言
わなかった。平和だなあとぼんやり思っていたら欠伸がでてくる。机に突っ伏し
たらつるつる冷たい感触で頬がぺたりとくっついた。そういえばこの感じはなん
となく光に似てる、指で机にひかる、ってなぞるみたいに書いた。


「何しとるん、先輩」
「えへー」
「意味わからへんわ」
「好きだよ」
「どーいうアレなんすか、つながり」


そんな風に返す光が、いつもよりずっと優しい顔をしてたからあたしは目を細め
る。机をなぞるなんていう小さいこと、光が見ててくれたってだけで顔が緩んじ
ゃうのに。視界の真ん中で、いつも黒々としたヘッドフォンに覆われてる彼の白
い耳にぶらさがった五輪カラーが揺れた。朝日が差す窓にむしろ背中を向けて、
比べて薄暗いこの部屋を見ているはずなのに眩しいなあ。すん、と鼻を鳴らすと
光のヘアワックスの匂いが恋しくなった。耳の遠くの方から響いてくるようにチ
ャイムが聞こえる。


「なあ」
「んはーい」
「先輩遅刻したいん?」
「え、…あっ」
「アホ」


光の言葉にはっとして時計を見上げると、さっきのチャイムは予鈴だったらしい
。やばくない。図書室は校舎の端にあって、あたしの教室は反対側の端さらに2
階上。光の教室は図書室のすぐ隣。走ったら間に合うかもしれないけど…、朝か
ら走るとかめんどくさー。
それにしても今日は、アホって呟いたときのちょっと呆れたみたいな笑顔とか、
光のレアな顔が見られて幸せな日だ。


「もーいいや。光、1限さぼろっか」
「はぁ? 先輩受験生やないんスか」
「ふふふ、あたし頭はいいの」
「ま、しゃーないっスわ」


がたんと音をたてて光がカウンターの椅子から立ち上がって、ほな早く行きます
よーって言う。あたしも慌ててバッグを掴んだ。ドアを開けると朝のホームルー
ムらしい、ざわざわした空気がどっと押し寄せてくる。なんとなく耳をすませて
いると、財前おらへんのかーという彼の担任の声が聞こえてきて吹き出してしま
った。あ、思いっきり光に睨まれた。


「ねーどうしよっか」
「見つからんように歩けっちゅーねん」


あたしがとくに声量を気にせず光を振り返ったら、ため息をつきそうな顔で返さ
れる。だって光といれて嬉しいから、なんてだめ?


「中央階段」
「ん?」
「の、踊り場なら見つからんとちゃう?」
「うん。行こー」


踊り場だったらほとんど人が来ないし、中央階段だったら先生とかに見つかった
としても逃げ道広がるし(たぶん)。早歩きで中央階段に向かう。上履きと廊下の
タイルが小さくきゅって音を鳴らした。踊り場はいろんなクラスの音からも一線
引かれたみたいに、しんと静かでなんとなく空気が冷たい。

しっとり冷えた階段の3段目に2人して座り込む。さっきあたしが投げた飴がポ
ケットから取り出されて、ぱくりと光の口に飲み込まれた。いたずらっぽく出し
た舌の上でつやつや光る苺の飴と光の舌の鮮やかな赤を見ていたら、口の中に甘
酸っぱい苺の味がよみがえった。


「おいしいでしょ」
「まあまあ」
「えー」




くーちゃんへ お誕生日おめでとう!

'100207



 Thank you very very much!!
こんな素敵な財前をありがとう!!
誕生日マンセー!今年もよろしくおねがいしますっ!(紅)

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