どくどく腹
「・・・硫化水素」
「トリカブト」
「ヒ素」
「芥子」
「黄燐・・・って、私たちなにやってんの?」
「・・なんやろなぁ?」
そこで、私たちは同時にため息をついた。
毒物質言い合って何が楽しいのか、と自問したくなるものである。
「そういや白石。今日図書室で友達が毒草図鑑見つけてた」
「そうなん?」
「見つけた途端、友達は『白石やん!』って叫んでたんだけど、そこんところどう思いますか白石さん」
「・・・なんともいえへんなぁ。俺のイメージってそんだけかい」
と、今度は白石だけがため息をついた。
私はというと、笑顔である。他人の不幸は蜜の味なのである。
白石は確かにモテるが、その恋心には憧れを多分に含むのだ。
その証拠に、彼の素というか、部活以外での顔を知っているクラスメイトで、彼に惚れている人はいない。
そして彼の素のイメージは、只のボケ、若しくは只の毒マニア、若しくは健康ヲタク。こうして並べると、碌なイメージが無いことに気付く。
私の友人の「毒草図鑑=白石」という発想も、そこらへんから来ているようだ。
「・・・・キャラ付け間違った気がすんな・・」
「毒草マニア?それとも健康ヲタク?」
「どっちもや」
「どっちも君の本性さ」
「なんでそんなしたり顔で語んのや」
「ケセセ」
「うわ、ウッザ。女の子にこんなこと言いたないけど、ウザいわ四谷」
白石の表情がイラリとするのが分かった。
対照的に、私の笑みは深くなる。私からして見れば、他人の怒りも蜜の味なのです、まる。
「でも私、毒草マニアじゃなかったら、白石とはこんな風に喋ってなかったよ」
「何でや?」
「だって、取っ付き難いもん。イケメンで完ぺきな奴には絶対近寄らないって心に決めてるから、私」
「・・・そらまぁ、殊勝な心がけやな」
「お褒めに預かり至極光栄」
「ほめとらんわ。嫌味くらい素直に受け取れんのか、お前」
「ややこしいよバカ。しかも白石って案外口悪いよね」
「四谷相手に優しさ気取ったってしゃあないやろ」
「まあな!」
「なんで威張んねん」
「ほら、バカなほうが取っ付き易いでしょ?」
と、我ながら素晴らしい笑顔を見せてやれば、なんだか白石は微妙な顔をしてぼそりと呟いた。
「・・・キャラ付け成功者か」
「化学毒マニアっていうのも、不思議っぽいスパイスがあって素敵でしょ?」
「この腹黒め」
ふむ。ではもう一度繰り返しましょう。
お褒めに預かり至極光栄。
(「ほめとらんわ、ドアホ」と彼は頭を抱えましたとさ!)
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