涙空



ざーざーと上から下へと続く、雨。

今日本は水分補給期、すなわち梅雨の真っ只中だ。



「・・・やれやれだぜ。」

「俺の隣に承太郎がいるC−。」

「この台詞がわかるとは。さすがスタンド名を全部いえる男だね、ジロー君や。」

「へへー。憐も女の子のわりに詳しいじゃん。」


場所は武道館入り口。

剣道部所属の私と、テニス部レギュラー面子の一人である芥川慈郎は、たいした内容でもない会話をして暇をつぶしていた。


急にやってきた空のぐずりに、テニス部は外練を中止せざるをえず、いつもより少しばかり早い部活の終了らしく、今日は跡部が私を迎えにきてくれるらしい。
それでも、私が待つ彼は戸締りやら日誌の記入やらをせねばならず、隣の金髪と同じ様にはいかないようだった。


「跡部遅いねぇ。」

「おそいねぇ。」

「雨だからさっさと帰りたいのにねぇ。」

「帰りたいの?」

「帰りたいの。」

― 跡部だから、待つけどさ。


そう付け足して、私はばたりと床に倒れこんだ。

武道場は、夏暑くて冬寒い。最悪の立地条件に加え、建物自体あまり温度を変えない性質を持っている。
それでも床は僅かばかり冷たくて、思わずあぅー、と奇声を上げる。


「床冷やっこいわー。」

「武道場クソ暑いC−。」

「知っとるわ、んなこと。そのクソ暑い中、防具つけて運動してるのは誰だと思ってる。」

「知らねぇー。クソ暑ぃー。」

「クソ暑いー。」


「女がんな汚ねぇ言葉つかってんじゃねぇよ。」


二人でどこぞのミソっ子のようにクソクソ連呼していると、アーモンドブラウンの髪のヤツが私の視界にいっぱいになった。


「あ、あとべー。」

「跡部おそいし。溶けるかと思ったわ。」

「はっ、溶けなくて残念だったな。」

「残念ちがうだろ。そこは素直に“ゴメン”って言っとけよ。」

「はいはい、悪かったな。・・・帰るぞ。」

「おうよ。 じゃぁね、ジロー。ちゃんと電気消して帰ってよ。」

「分かってるC−。じゃぁねー。」


お互いひらひら手を振って、私は先を行く跡部の後ろについていった。








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