手を繋いで



『はる君、お散歩行こうか?』

『うん、憐姉さん!!』


天気が良くて風が心地いい日は、決まって隣に住む仁王家の長男坊と散歩に行った。

三つ程年下の雅治君は静かな子供で、だからこそ子供嫌いの私でも仲良くなれた。


道路側を歩くのは私。
はる君は左利きだから、二人が利き手を不自由にさせることは少なかった。


彼の姉と仲が良かったこともあって、私とはる君のこの熟年夫婦みたいな関係は結構長く続いたのだけれど、私が中学に入学したのをきっかけにぱったり。




しかしそれは、はる君が中学三年生になってから、また復活したのだった。


「はる君?」

「なんじゃ、憐さん?」

「いや…部活はいいのかな、と思って。」

「…気にしたら負けぜよ。」

「…はる君?」

「スンマセンサボりましたけど憐さんが今日しか時間ないって聞いたからいてもたってもいられなくなったんです。」

「そっか。ありがとう。」

学校では全国的に有名な詐欺師らしいけど、私の隣で慌てたり照れたりするはる君はずっと昔のままだ。


かわいいかわいいはる君。

けれど、あまりかわいいを連呼すると彼は拗ねてしまう。

どうやら、かっこいいと言われたいお年頃らしい。


複雑な年頃だなぁと思いつつ、内心かわいい!の嵐だ。


「けど、もうこんな風に散歩も出来なくなるねぇ。」
「……。」


しみじみと私が呟くと、はる君はひどく哀しそうに眉を動かしたので、あわててフォローを入れる。


「い、いや、東京と神奈川って結構近いし!」

「けど、隣の家じゃなか。」

「う、うん、まあそうだね・・。」

「・・・・・・遠い・・・・。」

「いや、会いに来るから!」

「・・・ホント?」

「ほんと!」


力強く頷くと、ようやくはる君はにひゃりと笑ってくれた。

その様子に、私もほっと笑みが出る。


恥ずかしながら私は今も昔の癖が治らなくて、彼が少しでも悲しそうな顔をするとすごく不安になるのだ。
彼は、小さいころ泣くのを我慢してうーうーなる子だった。見ていてとても痛々しい類のうーうーだ。うーうーってなんだ私。


ともかく、だからこそはる君が笑ってくれるのはとても嬉しいのだ。


「じゃあ、俺も憐さんに会いに行くぜよ。」

「うん、無理しないでね?」

「ん。あと、全国大会で俺のトリックプレイ見せちゃる。」

「お、頼もしいね。ぜひとも立海三連覇を!」

「もちろんじゃ。」


そういって、はる君はもう一度笑った。
今度はにひゃりなんて頼りない顔じゃなくて、男の子としての強さが窺えるカッコイイ笑みだった。


「・・・憐さん。」

「なあに、はる君?」

「好きって言っても、よか?」


一瞬、時が止まったかと思った。
けれど風は相変わらずそよそよと髪を揺らしていたので、きっと止まったのは私の呼吸だったのだろう。


「・・・は? えっと、それはどういう意味で?」


ようやく出せた言葉は、そんな気の利かないものだった。


はる君は、真剣な顔を崩さずにもう一度、繰り返した。


「憐さんのことが好き。憐さんの恋人になりたい。」

「・・・え、えぇぇえ?」

「男として見てないとか、今は言わんで。今から、見方を変えて、それで考えてほしいんじゃ。」

「え、けど、あの。」

「次会うときには、返事がほしいのぅ。」

「ちょっとはる君!」


言い逃げかよ!といいたくなるタイミングでいきなり駆け出したはる君に慌てて声をかけるが、彼は止まらなかった。


「言い返事待っとるぜよー。」


一度だけ振り返ってそういうと、彼はさらに速度を上げて走り去ってしまった。



賑やかな住宅街の一角で、ぽつんと取り残される私。


「・・あ、歩道。」


ふと気がついてみれば、彼は車道側を、自分は歩道側を歩いていたらしかった。



手を繋いで、
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