ネバーランドにさようなら



カーテンから漏れる光を鬱陶しく思いながら、私はごろりと寝返りを打った。
世界は今日も明るくて、眩しいほど輝いているなあなんて、まるで私は世捨て人かというような感想を抱いた。

「憐ー」

「お、おおおお?」

「?だいじょぶか?」


予期せぬところから声が掛かったと思えば、お隣の家に住んでいる幼馴染の仁王雅治が、私のベッドの縁に顎を置いて唸っていた。一体どんな状況なの、説明して!と頭の中の誰かに尋ねてみても、反応は返ってこなかった。当然だ。

こてりと首をかしげてこちらを見ている仁王雅治を自分の部屋に上げた覚えは、ない。あくまで幼馴染という域を出なかった私たちの間には、年を経るにつれて遠慮という距離が生じてきて、最近では学校ですれ違っても言葉を交わさないほどになってしまっていたはずだ。
まあ距離を作ったのはワタシなわけですけれども。こんなにカッコイイ幼馴染がいることになんとなく劣等感を感じた私が、勝手に彼を遠ざけた。それだけの話だ。


「ま・・・っ仁王?」

「仁王って呼ぶんじゃなか」

「ま、さはる」

「なん?」


にこにこと上機嫌に笑う彼は、やはり何度見直してみても仁王雅治その人で。
寝起きということも相俟って、頭の中は混乱していくばかりである。


「なんで、ここに?」

「んー?憐が風邪引いたって聞いたから」

「けど」

「心配じゃろーが」

「しんぱい、って・・」

「昼休み、憐のクラス行ったら、おらんくて。お前さんの友達に聞いたら、休みっちゅーから」


だから来たんじゃ。と、どこか自慢げに語る雅治が、ようやくベッドから頭を持ち上げた。
へにゃりと情けなく下がった眉毛が、彼の優しさと心配を如実に語っている。


「・・そっか・・ありがと」

「どーいたしまして」


優しい幼馴染様をみて、今まで抱いてきた劣等感というものが途端にバカらしくなってきた私は、少し熱っぽい腕で彼の白い髪に触れた。相変わらず、少し痛んでいて、それでいてとてもさわり心地のよい、細い糸のような髪だった。


「すぐよくなるか?」

「まあ、冬風邪だから。そんなに長引かないと思うよ」

「ピヨ。なら、ええ」

「うん、ありがと」

「アイス食う?ちょっと溶けちょるかも知れんけど」

「食うー」


彼が持ってきてくれたのは、昔私が風邪のときに好んで食べていた大福のようなバニラアイス。
それを見て、すこしだけ胸が苦しくなったけれど、知らないふりで、やったーと喜んで見せた。別にそのアイスがキライになったわけじゃないのだから。


「うまい?」

「んまい。このもちもち感がよい」

「一個くれ」

「一個とか、がめつっ」

「とか言いながらちゃんとくれる憐が好きじゃ」

「はいはい。わざわざ来てくれた御礼ですよー」


1パックに二つ入っているうちの一つを雅治の口に運んでやると、彼は嬉しそうに目を細めた。昔から雅治は、私の好きなものを貰うと、妙に喜んだ。彼は昔と全く変わらないのだ。


「次のお見舞いは、林檎がいいな」

「・・林檎?ん、わかった」


少し怪訝な顔をしたが、雅治は了解した。

今の私は、風邪といえば林檎なのだ。



(いつまでも昔のままではないのだから)




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成長と共に変わった嗜好と、それを知らないままだった仁王。そして変わらない幼馴染"という関係性。
随分幼馴染を遠ざけてきたことに罪悪感を感じる女の子。

11/12/11 2010年仁王生誕祭より移動
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