そうして恋人たちはキスをする



朝起きると目の前に雅治の均整の取れた麗しい顔があって、声にならないほど驚いた。


結果として、驚きが声にならなかったことはとてもよかったことだったのだけれど、そのとき私は、覚醒できていない頭が一気に白くなって、顔が赤くなって、足と手の指先が冷たかった。

たっぷり10秒彼の寝顔を見つめたところで、私はようやく、昨日彼が自分の家に泊まったのだという事実を思い出した。その10秒間、今までの人生で例を見ないほど必死で働いていた脳は一気に緩くなり、その遅速のギャップにむしろ私が置いていかれそうだった。


時計を見れば、現在時刻は午前6時にちょっと余裕を見るくらい。すっかり早起きの癖がついてしまっている自分に苦笑して、横を見遣る。

普段私よりも早く起きて早く活動を開始しているであろうはずの雅治がぐっすりと夢の中であるのが不思議で、しかしそのちぐはぐさに愛しさを覚えてしまう。どんなに学校でクールぶって格好つけていても、やっぱり雅治も人間なのだ。


「・・・雅治ー」

「んー・・・あと17分・・・」


一人で起きているのも暇なので、なんとなく彼の名前を呼んでみると、もうちょっと寝たいという心がありありと浮かぶ返事が、むにゃむにゃした口調で返って来た。

なんだその中途半端な要求時間、と一人彼にツッコミを入れて、その様子にクスクス笑った。二人きりの時の雅治は、本当にかわいい。

普段はきつく結ばれている白銀の髪が、疎らにベッドの上に散っているのも、今は私だけが見れる特別な景色だと思うと、なんだか今すぐにカメラを持ち出して来たい気持ちになる。けれどカメラに収めてしまうのももったいない気がして、結局いつも私は動けない。


最初は、自分の白いベッドには、白い髪も白い肌も、とにかく彼が持つ全ての色は、対照がないから目立たないだろうと思っていた。
そのまま雅治に言ったこともある。

彼は賢い人だから、きっとその言葉に込めた本当の意味も分かっていただろうけれど、それでも「そんなことないぜよ」といって笑った。そして私の額に小さなキスをくれた。


雅治の寝顔を見ていると、彼との思い出が沢山思い浮かぶ。
たぶん、起きている彼を見ていても昔を懐かしむような心の余裕が生まれないからだと、理由はなんとなく分かってるが、自分ひとりで浸る思い出は少し寂しいものでもある。
今度、にやにや笑いは覚悟で雅治と一緒に話してみようか。案外、食いついてくれるかもしれない。


「ん、ぅ・・」


色っぽい声を上げて、雅治が寝返りを打った。
彼は寝るとき、私のほうを向いて寝るか、うつ伏せで顔だけこちらに向けるかのどちらかの体制しかとらない。

今の寝返りで、雅治は苦しそうなうつ伏せへと体の向きを変えていた。
またこみ上げてくる笑いを喉の奥で押し殺して、私は自分の腕時計を見る。

今日は土曜日。知っている。
そんなことよりも、今日という日に限っては日付が大切だ。


「12月4日・・か」


12月4日は、雅治の誕生日、そして、私たちが付き合い始めて2年が経過した、所謂二周年の記念日だ。

窓から遠い空をみると、嬉しいことに雲ひとつ見当たらない。
まだ日は昇っていないけれど、太陽が顔を出せばさぞや素晴らしい快晴となるだろう。


ごろりと、また雅治が体制を変える音がした。
この様子じゃ、もうあと10分もすれば、彼も眠りから覚めるだろう。


彼がおきたら、まず二人で一階に下りて、顔を洗って、そうして彼におはようと挨拶しよう。

それから、誰より先に彼におめでとうを言って、朝食を食べてケーキを食べて。




(その後で、私は誰より幸せだって言おう)(2年前とは違うから、って)



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「その言葉に込めた本当の意味」=「私は仁王とつりあわないよ」的な。

11/12/11 2010年仁王生誕祭より移動
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