愛情表現
予習も宿題も豆テストもない授業の前の休憩時間、それは学校生活の楽しさをぎゅっと圧縮したような時間であると私は考えている。いいすぎとかでは決してないはず。
その幸福絶頂の時間に、私は敢て意味のない質問を、目の前でダルそうにシャーペンを回している彼にしてみることにした。
「あのさー・・・甘いものはお好きデスカ?」
「なんで片言なんじゃ?」
くっくっ、という彼特有の喉を鳴らすような笑いを聞きながら、私は膨れてみせた。
「君が甘いもの好きそうじゃない外見をしてるから、ちょっとドキドキしながら聞いてるんだよ仁王君や」
「・・・プリッ」
「まあ聞いては見たものの、実は家族の分しか作ってないんだよね」
「・・・・・・・プリッ」
どちらも同じ仁王語(ちなみに命名は私である)だけれど、二回目のそれは彼の気落ちが伝わってくる一言だった。
まあ仁王語だけで判別つかなくとも、眉間に少し皺が寄って、眉尻が下がってる表情を見れば、誰でも分かる。仁王はいまちょっと悲しくなっているのだ。
「・・・なんでじゃ」
「だって仁王は甘いものすきそうな外見してないもん」
「人を見た目で判断しちゃいかんって習ったじゃろ」
「ウチの親はむしろそれ肯定派だったんだね、これが」
「・・・ほんとに作っとらんの?」
「うん、そうなの」
「・・・・」
私が淡々と仁王の質問に答えていけば行くほどに、彼の瞳は悲しそうになっていく。
空気がションボリしている。
よく言うあれだ、捨てられた子犬のような瞳。今目の前にいるのはそれをした人間だ。
仁王はなにか言おうとして、けれどやっぱり言わずに口を閉じるという行動を3回ほど繰り返した後、意を決したように尋ねてきた。
「・・・憐、俺のこと嫌い?」
「だーい好き」
「・・ならなんでじゃー」
「うん、ちょっと仁王を苛めたかっただけなの。ごめんね?」
途端、ぱあっと花開くように瞳が輝きだす。
「じゃあ、実は作っとるんか?」
「仁王の分は作ってない」
「・・・なんでじゃー!」
「けれど、家にはいないはずのお兄ちゃんの分ならあるよ」
「・・・なあ、憐ホントは俺のこと嫌いじゃろ?」
「なーに言ってるの、」
だーい好きだってば
(好きだからこそ、ちょっと苛めてみたいとか)(そんなこと思いませんか?)
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