あなたの嘘で泣かせてちょうだい



今日は雨が降る。

それが、彼お得意のペテンで会ったと知ったのは、学校に着いたときだった。
友達に「なんで傘?」と不思議そうに見られ、「雨が降るんじゃないの、」と逆に尋ねてみれば、爆笑された。「あんたそれ、どこ情報?」と。


「〜〜っ、仁王っ!」

「おー?どーしたんじゃ、そんなに怒った顔で」

「い、つ!雨がふるって!?」


昼休みになってすぐ、彼がいる隣のクラスに突撃すれば、仁王はいつも通りにやにやと、彼の向かいで大量の菓子パンを広げていた丸井はゲラゲラと、どちらも同じくらい性質の悪い笑顔を浮かべて私を見ていた。


「また騙されたんだって?」


彼とは大して仲良くも無いというのに、腹の立つ聞き方だ。
私は、イライラとした態度を隠さずにふぅとため息をついた。


「もー・・・なんで私傘持ってきたんだろう・・・」

「俺のこと信じた証じゃろ?」

「黙れ仁王」


私は割りと、というか、かなり、騙されやすい人間だ。
しっかりしてそうで危なっかしい、純粋な心を持った女性、とは柳生くんの言葉である。流石紳士、女性を傷つけない言葉をよく分かってる、と感心したのは記憶に新しい。

そんな私を訓練しているつもりなのか何なのか、仁王は頻繁に私を詐欺の餌食にする。他の人と比べてみても、その頻度は以上である。


「仁王はなんで私のこといじめるの、」

「いじめちょらん」

「いじめてる」

「いじめちょらんって、俺なりに可愛がっとる」

「・・・も、やだー。仁王きらい。帰る」


B組の人たちの視線も痛いし、仁王も丸井も優しくないし。これはもう自分のクラスに帰って、友達からポッキーかベイク、もしくは食物部の余り物か、とにかく甘いものをもらうしかない。
弱ったメンタルを補強するためには、お菓子を食べるしかない。

きらい、きらい、仁王なんてきらい。

三回ほど繰り返して、私は仁王に背を向けた。

もう、今日は部活終わるのなんてまってやんない。汗臭い男ばっかりで帰ればーか。

人目の多いクラスの中じゃ言えない文句を心の中でいくつも吐いて、足早にその場から去っていく私の腕を、教室から出たすぐのところで誰かが掴んだ。

白い肌と長い指。それだけでそれが誰のものか分かってしまう自分が嫌になる。


「・・・なに、仁王」

「『きらい』って言っていなくなるのはナシじゃ。傷つく」

「私はいつも傷ついてるよ、君の嘘に」

「嘘やのうてペテン・・・やなくて。えーから、『きらい』は撤回してって」

「・・・・、仁王」

「ん」


二人とも何も喋らない一瞬。沈黙がおりる。


「わがまま詐欺師、大っきらい!」

「だ・・・っ、なっ!?」

「嘘吐く人なんてきらい!『ごめん』一ついえない男なんてサイッテー!柳生くんになって出直して来い!!」

「憐!」


私の腕を掴んでいた仁王の手をペシリと叩き落として、私は自分の教室に逃げ込む。
後ろで仁王がなにか言っていたけれど、私の顔を見て大体の事情を察してくれたらしい友人たちが私のことを守ってくれて、結局その日はそれきり、家に帰るまで仁王に会うことはなかった。



柳生君みたいな優しい人が彼氏だったら。なんて、今まで何度も考えた。


それでも、私の彼氏がいまだに仁王から変更されないのは。


―― ブブブブブ・・・・


「・・・あ、きた」

メールの着信を告げるバイブ音。
ディスプレイを見れば、そこには予想通りの名前があった。


『ごめん。憐、許して。好き、嫌いにならんで』


私が未だに仁王と別れられない理由。
それは、彼も案外可愛いところがあると、知ってしまっているからである。


 

(憐ー、憐ー)(けど、返信はあと一時間放置ってことで)


11/12/11 2010年仁王生誕祭より移動
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