“好き”の言葉でかかる魔法



彼と一緒に歩くとき、私が歩くのはいつも左側。
そのときはたいてい、私の右手と彼の左手がつながっていて、二人で二つの手をもっているような状態だ。

そしてここからは私の癖の話だが、私は人と歩くときはおよそその人の右側を歩いている。手を繋ぐときは尚更で、自分の利き手である右手を不自由にしながら隣に並ぶと、信用していないとかそんなものではないけれど、なんとなく居心地が悪いのだ。


「じゃあ、俺の右、歩くか?」


そんな私の癖を話すと、仁王は笑って右手を優雅にひらつかせた。


「別に、そんなつもりで言ったんじゃないんだけど」

「ほうか」

「だって、仁王の左は居心地いいもん。私の利き手は任せた!」

「任せろ」


私が、優雅とは程遠い動きで右手をバタバタさせると、仁王の硬い手の平がそれをすっぽりと包んだ。
冬は乾燥するー、と私や彼のお姉さんのクリームを無断借用しているだけあって割と滑らかな触り心地だが、如何せんスポーツマン。指の付け根や親指の内側に硬い肉刺ができていて、ゴツゴツと男らしい。大きさも、私より少しばかりだが大きくて、やっぱり“彼氏”だなぁという実感が沸く。


「しっかし、歩くときの癖、のぅ・・・」

「仁王は猫背だよね」

「それは歩くときの癖って言うんか?」


くすくすと笑いあいながら、仁王の歩いている姿を考えてみる。

ちょっと肩が内側に入っていて、そこから伸びる手はよくポケットに突っ込まれている。

それから、汚れと年季で灰色がかった彼の上靴は、かかとが履き潰されているから、歩くたびにペッタンペッタンとマヌケな音を響かせるのが特徴。

それから、それから。


「あ」

「何、何かあった?」

「俺は、歩くのいっつも左側じゃ」

「左?じゃあ常に利き手をふさいでるってこと?」

「逆ぜよ。憐と一緒。俺、左利きじゃろ?」

「あ」


そうだった。
じゃあ、私と歩くときはいつも、二人で利き手同士をくっつけて歩いているのか。


「いやー、案外人間って警戒心強いもんじゃの」

「まったくだ。じゃあ、私が仁王の右歩けば、二人とも利き手自由で、なんか安全?」

「デートで、一体何の危険があるんじゃ」

「世界は危険でいっぱいだよ」

「だとしても、憐の右手は俺の左手でホールド」

「えー。お互い損してる気にならない?」


私の言葉に、仁王は握っている手に力を込めた。
ぎゅ、と音が鳴りそうなくらいに強く圧迫され、私の右手と彼の左手の間には一ミリの隙間もないように感じる。
くっついてる。
まさにそんな表現がぴったりだと思った。


「ギブアンドテイクじゃ。俺の左は憐だけじゃから、憐の左は不特定多数でも、右は俺だけ。な?」

「・・・殺し文句だと思います」

「もうちょっと気の利いた返事が貰いたいもんじゃが」

「えー」


ちょっと考えても気の利いた言葉なんて思いつかなかった私は、仁王、と少し真面目に彼の名前を呼んだ。

ん、と私に顔を向けた彼に向かって、いつもは言わない二文字の言葉をあげてみた。


 
真っ赤になった仁王の頬に、小さなキスもおまけに一つ。
(それこそ殺し文句じゃろ)(もうダメ、萌え死にそうじゃ)


11/12/11 2010年仁王生誕祭より移動
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