Wake me up ?



秋風が心地よくなるこの時期、まあ眠くなるのは仕方ないよなぁと、動きが止まったみんなのシャーペンを見ながら思う。
黒板では、冒頓単于とかっていう人が中国に大きな打撃をあたえていた。この人の名前は、たぶん起きて話を聞いていないと読めない。テスト前に、また色んな読み方が教室中を飛び交うことが簡単に想像できて、ちょっと笑ってしまった。


「で、ここで中国はー・・・」


先生はクラスの様子なんかお構いなしに授業を進める。クラスの半分の頭がぐらぐらしていて、起きている人も、殆どがおよそ世界史とは関係ないプリントや単語帳を机の上に広げて、真面目に聞いてるのなんて5人いるかいないかくらいのものなのに、それでもお構いなしなのだ。才能を感じた。


そんな才気溢れる先生の説明が一区切りついて、私がくるりとペンを一周まわしたところで、目の前のたくさんのピアスが突然がくんと揺れた。

もちろん後ろで見ていた私も驚いたのだけれど、一番驚いたのは本人だったらしく、すぐに頭を上げて、何が起こったのかときょろきょろ左右を見渡している。


「ぷっ・・・」


そのかわいらしい様子に思わず吹き出すと、その小さな笑い声が聞こえたみたいで、前の席のピアスこと財前君が、不機嫌そうに眉を寄せてこちらを振り返った。


「なんやねん」

「いやいや、おはよう。よくお眠りでしたね」

「嫌味か」

「もちろん」


小声で話しかけてきた財前君に私が笑顔で頷くと、彼はたいへん不愉快だという顔を私に見せた後、何も言わずに黒板のほうを向いた。


そしてそれから25分間は、財前君はずっと真面目にノートをとっていて、二度寝をしたりはしなかった。

なんだか残念、と思いながら私も適当にペンを走らせていたら、なぜか財前君からメモが回ってきた。先生にばれないようにか後ろを振り返らず、しかし的確に私のノートの上に紙切れを落とした財前君は、何事もなかったかのように先生のほうを見ている。


財前君も授業中メモとか回すんだ、と少し感動して、その二つ折りのメモを開くと、そこには『後ろの席とか、ずるいで』の文字。細いシャーペンで書いたちょっと雑な感じがいかにも彼らしい。

せっかくだからと、私もそのメモに返事を書く。『ざいぜん君がねてるのが悪い。次からじゅぎょう中にモーニングコールしてあげようか?(笑)』。
そして先生が黒板を書き始めたタイミングで、財前君の席に投げる。ナイスボールナイスキャッチで、メモはちゃんと財前君に届いた。

けれど、彼がメモを開くのと同時に、チャイムが鳴ってしまった。

さて続きを話そう、と口を開いていた先生はちょっと残念そうな顔をしたけれど、そのまま学級委員長を促して授業終わりの挨拶をさせた。さてみんなの睡眠学習時間はこれにて終了。

私のメモ回しタイムもこれで終了だな、と背伸びをしたところで、前の席の財前くんがこちらを振り返った。今度は少し目元と口元を緩ませた、ご機嫌な表情だ。


「あんたからのモーニングコールなら大歓迎や」

「え?」

「というわけで、頼んだで」


普段じゃ考えられないほどにこやかにそう言い切って、財前君は机に突っ伏してしまった。

完全に休み時間を寝て過ごす気でいる彼に、これも私が起こさなきゃいけないのかとか思うより先に、そのにこやかな笑顔というのが、さっきの不機嫌面よりも、いつもの気だるげな表情よりも、ずっとカッコよくて。
それに思わず顔が熱くなってしまって、そして・・・、そして。

Wake up ?
(めざめ、目覚め、『 』への目覚め) (まだ、『恋』よりもちっちゃな君への気持ち)


*project:花天月地様提出作品(about:山葵《目覚め》)

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