goodbye.my friends



一つ、私の幼馴染のお話しをしましょう。

私の幼馴染は、中学テニス界で『皇帝』と呼ばれた人です。なんなんだろう、皇帝って。それテニスの異名じゃないと私は常々思っています。しかし以前に聞いた沖縄の人の『殺し屋』よりはましかなあとちょっとした妥協を覚えました。

彼と私は幼稚園から同じところに通っていて、家は道路を一本違えた同じ位置にありました。

昔、そう小学生の頃は私は彼のことを「げんちゃん」と呼んでいたのですが、今ではそうではありません。
とてもそんな名で呼べるような人じゃなくなってしまった、と感じた中学1年生の夏、私は彼のことを「真田君」と呼ぶようになりました。
きっと、男女の幼馴染には良くあることだと思います。
彼も彼で、私のことは苗字で呼ぶようになっていましたから、それはまるで当然の成り行きのように思えました。


ところで、私にはもう1人幼馴染がいました。
少々口が悪くありましたが、性根はまっすぐでとても優しい子でした。

彼女は中学に入っても真田君のことを「げんちゃん」と呼び続けました。
真田君も有名人でしたが、彼女も彼女で有名人でしたから、そこに遠慮は必要なかったのでしょう。なんというか、そう。つりあっていたのです。


中学3年生になって間もなく、真田くんと彼女は付き合い始めました。この場合の「付き合う」は、男女交際の意です。皆が口々に、お似合いだと囃し立てました。

あの二人、幼稚園から一緒らしいよ。ヘー、すごいね。メッチャ腐れ縁なんだって。まあ、幼稚園からずっと一緒の学校行ってれば、そりゃあ仲良くなるよね。

本当は私もその条件の1人なのですが、そのことを知っている人はいないでしょう。彼女とは時々メールをしていましたが、学校で会うことは殆どありませんでしたもの。私は真田君とも彼女ともクラスが違って、けれど真田君と彼女は同じクラスです。そういうものです、世界って。

そういえば、二人の交際は彼女のほうが告白して始まったそうです。
中学になってめっきり男の子らしくなった真田君に、ずっと想いを寄せていたのだと、彼女はメールで言いました。
私は無難にそうなんだ、と返した気がします。正直、良く覚えていません。
ただ二人が付き合い始めたことを知ったとき、目の前が真っ暗になる気がしました。もしかしたら私は真田君のことが好きだったのかもしれません。もしかしたら、幼馴染だった3人が、1組の恋人と1人の中学生になってしまったことが悲しかったのかもしれません。人の心なんて、きちんと整理しようがありません。


あぁ、あぁ。
今日も彼女と真田君は一緒に登校です。
手を繋いでいるわけでも、腕を組んでいるわけでもないけれど、確かに二人は幸せそうです。
それはとても、いいことです。

ふと、手からシャーペンが転げ落ちました。数ミリ出していた芯が折れて、カチカチと頭をノックしても何も出てこなくなってしまいました。どうやら最後の数ミリだったみたいです。

筆箱から芯を出そうとして、この間切らしてしまったことを思い出しました。こういう偶然は続くものです。今日は災難な一日になりそうな予感がします。


「憐?」

「柳くん?」

「あぁ。早いな、おはよう」

「おはよう。柳くんこそ早いね」


私以外誰も居ない教室、という状況を壊したのは、柳くんでした。
さらさらとした手触りのよさそうな黒髪を揺らしながら、彼は自分の席に着きます。
当たり障りの無い話題の転換をしてみますと、柳くんは照れたように苦笑しました。あえていうことでもないでしょうが、美人です。


「つい、部活の癖が抜けなくてな」

「そうなんだ」

「憐もこの時間に登校しているなら、明日からは一緒にこないか?」

「え?」

「真田だってあの調子だろう?もはやアイツに恋愛云々で責められる謂れはないし・・・どうだ?」

「えっと、じゃあ・・柳くんがいいのなら」

「決まりだな」


ふ、と微笑んで、柳君は私の額に優しく口付けてくれました。
私は幸せで幸せで、とても幸せです。




あぁそうです。私が言いたいのは、仮に失恋したとしても、それはその後幸せになれないというわけではないのですよ、ということです。
世界って、思いの外広いのです。





(そしてハロー、ニューダーリン)





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