おめでとう、ありがとう。



今朝はいつもと変わらなかった。

だけど、いや、だからというべきか、今この目の前にある状況が全く持って正常に脳へと伝わってこなかった。一体なにこれどんな状況。


「おはよう」

「・・え、うん。おはよ・・・う?」


普通に、それこそいつもと変わらない挨拶をしてくる真田に、私も努めて普通に返す。

朝真田と廊下で会うことも、こうしておはようを交わすことも、よくあることだ。

しかし、今日の彼の格好は異様だ。主に、手に持っているものが。
ついそれを凝視してしまったのだが、彼はそんな私の対応が気に食わないのか、少し眉を顰めた。


「どうした、早く受け取らんか」

「ええと、それは私宛なので?」

「当然。うちの母からだ」

「真田ママから?」


そこまで聞けば合点がいく。要するに、真田はおつかいなのか。


「ありがとう。・・・けど、なんで?」

「今日はお前の誕生日だからだろう、憐」

「え、なんで真田ママが知ってるの?!」

「俺が話した」

「なんで真田が知ってるの?!」

「それはっ!・・恋人だからに、決まっているっ!」

「!」


付き合いが長いから分かる。
彼が意味もなく力強い台詞を吐くのは、照れているときだ。
ちなみに、帽子を被っているときには、さらにそれを深くかぶりなおすという行動もプラスされるのだが、今は制服であるためその姿は見れない。

けれどその分、隠すものが無くて露わになっている頬の赤みを見ることが出来た。割りと完ぺきな彼の、貴重な可愛らしい姿だ。


「・・だが、その。贈り物などは、用意できなかった。・・スマン」

「いやいや、ううん。そんなのいいよ」


きっと真田のことだ。なにを贈れば良いのか分からなくなって、中途半端なものを渡すのもいやで、結局何も用意できず仕舞いになったのだろう。悩んでいる姿が眼に浮かぶようで、思わず笑ってしまった。


「な、なにを笑っている」

「いえいえ。幸せだなぁと思いまして」

「なっ・・・!」

「覚えててくれてありがと、真田。真田ママにもお礼を言っといてね」

「う、うむ・・」


そう言って、私は真田の手から可愛らしい紙袋を受け取った。
未だに照れているらしい真田は、どこか動きがぎこちなくて鈍い。

それにもう一度笑ってから、お礼を言って踵を返す。そろそろ教室へ向かわないと、小テストの勉強が危ういのだ。


そうして去ろうとした私の腕を、真田の手が掴んだ。

まだ何か用事があったのだろうか、と首だけで振り返ると、思ったよりも近い位置に真田の顔があって驚く。
しかも、人と話すときは必ず相手の目を見る真田にしては珍しく、視線が左斜め下に投げ出されている。


「どしたの?」

「いや・・、・・ありがとう」

「え?」

「憐が生まれてきてくれたことに、感謝する」


それだけ言うと、真田は手を離して足早にその場を去った。
残された私はというと、しばらくは彼の言葉をきちんと理解できず、理解してからも、一気に上気した頬をパタパタと仰ぐことしか出来なかった。


「あー・・もう!」


惚れ直すって、たぶんこういうことだ。






-------------- キリトリ -----------------
さちちゃんHappy birthday!
君に出会えてよかったと心から思います!
遅れた上に拙いものだけれど、おめでとうと感謝の気持ちを込めて(*´∇`)


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