いとしのマイダーリン
今日も日が昇り、沈んでいく。
薬草を摘んで、村人と話して。近所の子供に字を教えてあげて。
戦はない。飢饉もない。重い税もない。
嘆きたくなるくらいの平和な日常なのに、お前はここじゃないどこかで戦のために己を道具にしてるんだよな。
なあ、兵助。
お前は俺の傍には、いないんだな。
兵助が家に帰ってくる度、俺は黙って笑って彼を抱きしめる。
仕事帰りはいつも少し顔色がよくなくて、それでも元気そうに「ただいま」と笑うから、俺も全部隠して「おかえり」と言っていた。
それが俺達の正しい関係だと思ってた。
けれど、それも今日で終わりにしよう。
「兵助、おかえり」
「憐・・・ただいま」
いつものように兵助が笑う。
笑わないで欲しい。(離れられなくなる)
名前を呼ばないで欲しい。(ずっとずっと縋っていたくなる)
「兵助、帰ってきた早々悪いんだけど・・・」
「ん?いや、大丈夫。何かあったか?」
「さよならをしよう?」
(時が止まったみたいだ。)
笑顔のまま動かない兵助を見ながら、そんなことを思った。
「・・・ど、して・・・」
「俺は、兵助の『止まり木』にはなれないから。俺は、傷ついて帰ってくる兵助を黙って抱きしめることに疲れてしまったから。だから・・・別れよう?」
「・・いや、だ・・!嫌だ、絶対に俺はお前を放したりしない!俺は、」
「兵助」
「っ、俺は、いやだ・・・っ!」
どこからが違ったとか、そんなんじゃない。
ましてや愛がなくなったとか、そんなんじゃ絶対にないんだ。
だって、泣きそうな兵助を掻き抱いて、こんなときでも艶をなくさない美しい黒髪を撫ぜれば、こんなにも安心する。
多分、俺達はどこも間違っていなかった。
きっと二人の愛はこの世界の誰よりも大きい。
「なあ、兵助・・・」
「いやだ・・・憐・・・!」
「俺はどうしても、忍とは相容れないらしい」
「憐、憐、憐」
「だから、ごめんな?」
こんなにも離れがたいのに。
こんなにも愛しているのに。
だけど、多分二人一緒にいればダメになってしまう。
どっちも満たされないまま、ずるずると互いを依存しあって、そして壊れてしまう。
だから、
「さよなら、しよう? 兵助」
「・・・憐・・・」
願わくば、貴方にぴったりの『止まり木』がみつかりますように。
願わくば、次の世では。
俺が兵助と『家』を作れますように。
泣きすぎて枯れた二つの声が、森に響くなんてことがないように。
願わくば、永劫の幸せを二人に。
「兵助、(愛してる。)」
どうか、俺の声が彼に届いていませんように。
さよならしよう いとしのマイダーリン
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