君の名前を呼んでみる
私の髪は、特になんと言うわけでもない一般的な髪質、色だ。
サラストかといわれれば、ふにゃくるだ。
ふにゃっとしていて、いくら伸ばしてもまっすぐにはならない。要するに若干癖毛の気があるのだろう。
ただ、とてつもなく奇抜な髪色をしている人も多かったりするこの学園においては、そんなのたいした特徴でもコンプレックスにすべきことでもないようで、よって私の髪は平凡。
中身も中身なら、外見まで平凡な私なのだ。
そんな私の隣にいるのは、美しい髪とはかくあるべき!とでも言いた気な(現代風に言えば、シャンプーのCMに出れそうな)美しい黒髪を持った10歳である。
彼とは入学して以来ずっとお隣さんだ。
教室での机への並び方も隣、部屋も隣。
余談だが、前者のほうが後者よりもずっと距離は近いのだが、心の距離が近く感じるのは後者である。きっと、同室の潮江君が彼の素の部分を引き出していて、それを間近に聞けるからだろうと思う。
残念なことに、今は教室であるため、いつものクールビューティなほうの彼しかいない。
しかしなんだって、彼は今こんな時間に私の隣に座っているのだろうか。
「・・ねえ立花」
「なんだ?」
「教室になにか用事でも?」
「・・・特にない」
じゃあなんで!と叫びたくなる衝動を必死で堪えて、そう、と相槌を打った。
「じゃあ、私になにか用事があったり?」
「・・いや、ない」
「じゃあなんでだよ!」
あ。叫んじゃった。
けれど突然叫びだした私に驚きもせずに、彼こと隣の席の立花くんはしれっと言い放った。
「特に理由はない」
「へえ、暇なの?」
「いつも暇そうな宮川とは違って、やるべきことはたくさんある」
「お前その前半の言葉って必要だったか?」
「・・・・・・文次郎が、」
「・・・ほう、潮江が?」
ちなみにちょっと返事が遅かったのは、私の言葉を全く意に介さない立花への反抗のつもりだ。
「私といるときの仏頂面ばかりが宮川の表情じゃないんだと言っていて、」
「当たり前だろ」
「っ、じゃあどうして私の隣じゃいっつもその顔なんだ!」
「いや、隣でなんもないのにニコニコやられたらウザくない?」
「・・・ウザい」
「神妙に頷くなよ。・・・だから私が笑わなかっただけの話だろ、なんでそんなに気にしてるの」
何気なく繋げたはずのその言葉に、立花は頬を赤く染めてあらぬ方向へと顔を背けた。
人類みな変わらない、その“照れてます!”の仕草に、兵助一筋の私でさえ不覚にもきゅんと胸が締め付けられる心地になる。
将来立花が女性に困ることはなさそうだ。
「私と仲良くなりたかった?」
「・・・」
「はは。じゃあ、自己紹介から始めよう?私は宮川。宮川蓮士だ」
「・・立花、仙蔵だ」
「そ。よろしくね、仙蔵」
「・・あぁ、蓮士」
念のため言っておくが、私は別に正太郎コンプレックスでもなんでもない。
いくらこの立花・・おっと、基、仙蔵がとてつもなく愛らしくぐっとくる笑顔を晒してくれても、それに抱きついたのはあくまで友情であってそれ以外の何者でもないのだ。
とかなんとかいったって、それは所詮言い訳でした。
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