私は泣きました
今年の初雪は、私の知らぬ間にもう消えてしまっていたらしい。
朝になって、さっきまで雪が降っていたといわれ、少しばかり落胆した。
「初雪に・・・、」
「姉さん?どうしたの?」
「・・・初雪に、願を掛けたら叶うかね?」
「・・・そんなんだったら、日本中の受験生が勉強なんてしないで空を見上げてるよ」
すこしだけムッとした表情で、弟が言い返してきた。
「君は今年高校受験だものね」
神掛ったものはあまり好きじゃない性格は、きっと両親からじゃなくて私からの影響。
「兵助なら大丈夫。私でも受かったんだから」
「姉さんの変態頭と一緒にしないで・・」
「変態とは失礼な。乙女頭といいなさい」
「腐った乙女頭」
「君の姉はそう簡単に怒らないとは、おーもーいーかーねー!」
「なんだよ、姉さんゲームのしすぎ・・あいたっ!」
「そこの問題間違ってるしー。兵助アホー」
「え゛!」
かわいい弟の兵助。
いっそうざったいほど仲睦まじい両親。
にゃんこの諭吉。
その中にいて私は幸せで、人生に不安を感じないというほどではないものの、大きな挫折とはいまだ無縁な生活を送ってきていた。
善良か極悪かといわれれば善良。
凡人か天才かといわれれば凡人。
いたってどこにでもいる普通の人間。
ねえ
それが壊れたのは、誰のせい?
ねえあんただれどうして私たちの家に勝手に入ってきて
ねえその手に持っているのは何
なんでそれを兵助に向けているの
ねぇ
ねえ
ねえ!
『この後どうなるかわかるだろう』って、誰かが言った。
「ねえ、さん・・・?!」
兵助が目の前で傷つくくらいなら私がいたいほうが何倍もマシ、ああ痛い。
痛いや、ちょっと刺さりどころ悪かった。
これはちょっとまずい。
噴出した紅に怯えてさっさと逃げていった誰かにそっと息を吐こうと思ったけど、それは息にすらならず血がゴボリ。
ああ口の中が汚い。こんな最期はちょっと嫌だけれどもうどうしようもない気がする。
ああ、ごめんね兵助。
「へ・・・すけ、」
兵助、君は、生きて、笑って、私みたいに楽しくない生き方じゃなくて、いやこんな生き方でもいいから、ねえ、へいすけ、大好き、ねえ、へいすけ、
「あ、いして・・・る、よ」
だから君はどうぞ幸せに。
姉さんは君より随分と先に逝っておきます。
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