私は諦めてしまいたい
丸々一月ほど保健室に居座った私は、二日前にようやく自室へと帰ってくることが出来た。
本当ならもう授業に行かなくてはいけない。遅れをとった分も、取り返さなくては。
そう思うのに、私はどうしても自分の部屋から出られないで居た。
「・・・やだ・・」
殆どは髪に隠れるだろう位置に、醜い火傷の痕。
私だって忍を志すもの、大抵の怪我と傷跡には見慣れているが、火傷となるとそうもない。それも、顔面となると。
「・・・いやだ」
火傷の痕を辿ると、白くにごった瞳にたどり着く。
何も映さない、何の色も分からない。右目を瞑れば、もうそこは真っ暗な闇になってしまう。
左から足音がしたって、苦無が飛んできたって、私は分からないのだ。それは、忍としてとても大きなハンデ。
「いやだ、いやだ。もういやだ、帰りたい、帰りたい、帰りたい」
こんな身体で、忍になんてなりたくない。死にたくない。
こんな身体、誰かに晒したくは無い。誰にも見られたくない。
事故だから仕方ないって、あれは私の実力不足。そのせいでこんな身体になったなんて、そんな惨めなこと知られたくない。
いっそ死んでしまいたかった。あのまま、あの時。
会いたくない、誰にも会いたくない。
誰か来て、私を助けて。
相反する気持ちが、胸の中で渦をまく。
死にたくて死にたくなくて、帰りたくて帰りたくなくて、
誰かに会いたくて会いたくなくて、ああもう全て諦めてしまいたい。
諦め。そう、それが今一番の良策だと思った。
忍を諦めて、家に帰ればいい。家に拒まれれば、そこで全て諦めてしまえばいい。生きることすら、そこでおわらせてしまえばいいじゃないか。
ああ、けれど。
「へ・・・い、すけ・・・」
なぜか無性に君に会いたいよ、兵助。
- 9 -
[*前] | [次#]
←dream
←top