私は痛いのです
「っ、蓮士ーーー・・・!!!」
誰のか分からないが、私の名を呼ぶ声が聞こえた。
いや、本当に聞こえたのかどうかも危うい。タダの妄想なのかもしれない。
刹那、爆音と爆風。右からかと思いきや、どうやら爆発は自分の左で起こったらしい。しかしその音を捉えたのは右耳だけ。どういうことか。
分からない。分からない。
何もかも、私の理解を超えていた。
そうして、何も理解できないままに私の視界と思考は暗転する。
それはいづそやの、死んだときの感覚に似ていた。
* * *
まじ死ぬこの痛さは死ぬもう一回死ねる!
そう思って飛び起きた、つもりだった。
けれどその行動は、体の自由が利かず、目すら満足に開けられない自分にはっとするだけで終った。
「、蓮士、意識・・・戻った?」
「・・、ぃ、さ、・・・」
「喋っちゃだめ!」
伊作、と動かそうとした口はみっともないほど稚拙な音しか出せなかった。
それに加えて、喋ることを止められてしまった。
これはもう黙るしかない。
「蓮士、僕の声は聞こえる?僕の顔がはっきり分かる?」
「・・・」
聞こえる、分かる、けれど。
それをどうやって伊作に伝えればいいのだろう?
「・・聞こえるんなら、右目を瞑って」
なるほど。
妙に感心しながら、私は素直に右目を瞑った。
左目は包帯を巻かれているのか、瞼がいうことを聞いてくれない。
「見えるなら、もう一度右目をあけてみて」
いわれて、閉じた瞼をもう一度開けた。
伊作が、安心したように息をついたのが分かった。
「不幸中の幸い、かな。右目と右耳は無事みたいだ」
「・・、ど・・いう・・・」
「あ、喋っちゃだめだったら!」
「どうって、ことない・・・い、さく。どういう、こ、と?」
「・・蓮士の左目は、きっともう使えない。耳も」
「・・ど、して・・」
どうして、もなにも、あまりに現実味がない。
だって、私は今きちんと伊作を見て、話を聞けているのに。
今私の頭を占めているのは、当惑と疑問。それから、目の前の伊作のとても苦しそうな顔への罪悪感だけだった。
「・・・覚えてる?君が森にいた子供を助けようとしたの」
「・・・ん」
覚えている。
3、4歳くらいの男の子に、それより1つくらい上の女の子の二人連れ。
それがどうしてだか私の昔を思い出させて。
「・・ばくやく」
「・・うん。蓮士たちを追っていた忍がね」
「・・・」
それで、か。
妙に納得する自分がいて、そして伊作に言われた自身の感覚器官の異常も現実だろうと諦めている自分がいた。
「・・・っ・・・!」
「蓮士・・・」
視界が潤むから瞬きを繰り返してみれば、目の縁から水が流れた。
それが、頬にできた小さな擦り傷を掠って、染みる。
「・・・い、たい」
「・・うん」
「・・・・いたい、んだ。かなしいんじゃなくて、いたいんだ」
「・・うん・・」
悲しいのではなくて、痛い。
そう、これは決して悲しいから泣いているのではなくて、痛みによる生理的涙なのだ。
それだけなのに、どうしてだか、私の世界が突然崩れてしまったような気になった。
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