あのあと、光る塔の頂上にたどり着いたぼくが見たものは、信じられない光景だった。

塔の上空からゆっくりと下降してくる発光物は、紛れもなく人間。あのスピードでは、着地と共に死ぬなんてことはないだろうけれど、それでもおちてくる人間を目の前に呆と棒立ちしているのはぼくの中の良識的なものが許さなかった。
頭で考える前に、その人が落ちてくるだろう場所まで近づいて、受け取る構えをとりながらその下降を見守った。


ふわふわと、ひょっとすると風に吹かれてどこかに飛んでいくのではないかと感じてしまうほど、ふわふわと軽い動きをするその人物は、どうやら少女らしかった。少し長めの黒い髪が、風に遊んでいる。そんな判断ができるくらい、少女の身体は塔に近づいていた。


あと1m、

70センチ、

50センチ、

25、

10・・


「おっ・・・と」


少女が無事、腕の中に降って来た。
まるで童話の眠り姫のように、平和な顔で眠っている。呼吸はしている。生きてる。

そうしてぼくは深くため息を吐いた。それは、降りてきたのがホウオウではなく少女だったことへの落胆か、少女が生きていたことに対する安堵か。自分でもよく分からなかった。

少女は依然としてピクリとも動かないまま、その小さな手を胸の上で組んで、ぼくの腕の中にいる。

そこでぼくは少女が何かを持っていることに気付いた。
注意する必要もないだろうが、一応身体をあまり揺らさないようにして、彼女の手を見る。


「!これは・・!」


ホウオウの羽根だった。ぼくが見間違えるはずは無い。何度も何度も本で見て、ずっと憧れていたポケモンの羽根だから。

どうしてこの少女がホウオウの羽根を持っているのか、肝心の本人が寝ていては知る術も無い。だから、彼女を自分の屋敷に連れて帰った。

寝ている人間を放置するわけにもいかない。そう言って、自分の行動を正当化しながら、彼女の身体を布団に寝かせた。
布団に寝かせた途端、組んでいた彼女の手が緩むものだから、慌ててその手から虹色の羽根を回収して、枕元に置いておいた。


とりあえず、ぼくも部屋着に着替えてこようかと立ち上がろうとしたところで、少女の目がぱちりと開いた。今まで全くそんな気配を見せなかったから、不覚にも少し驚いてしまった。


「目が覚めた?」


内心の動揺や焦りは見せないように努め、声をかける。
少女はそこで初めてぼくの存在に気付いたようで、戸惑った声を漏らす。


「あ、混乱してるかな?とりあえず、痛いところとかない?」

「う、な、ない・・です」

「そう、よかった」


話せる状況ではあるらしい。正直、言葉が通じなかったらどうしようという不安もあったから、そこは安心した。

彼女に、今の状況について話してあげると、ひどく狼狽えた様子だった。しかし、まず「気持ち悪かったでしょう?」と謝ってきたことにはこちらも驚かされた。面白い子だ。


「マツバさん。私が落ちてきたときのこと、詳しく教えていただけませんか?」


そう言われたときにはまた驚いた。自分のことを理解しようと必死らしいが、年の割に随分と冷静だ。先ほど取り乱していた姿とは似てもつかない大人の表情をした少女、コノハちゃんに、ぼくはにっこりと笑った。

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