その日は平凡で平和な一日だった。
ジムへの挑戦者もいなくて、慌ただしい出来事も無くて。

本当に何も言うことがないくらいに平和だったから、ぼくはとても暇だった。ジムトレーナーのイタコさんたちにも、今日はもう帰っていいといわれてしまった。僕自身、今日はジムにいても何の成果も得られないと思った。

周りの提案に従ってジムを出たぼくは、何という気もなしにスズネの小道へと足を向けていた。気がつくといつもふらふら立ち寄ってしまう場所だ。それは、いつか、このようななんでもない日に、ホウオウがスズの塔へと降り立ってくれるのではないかと、どこかで期待しているからかもしれない。

スズネの小道は、いつも落ち葉が舞っている。移り変わることを知らないこの道は、いつでも秋景色だ。花は咲かないが、それでもいいとぼくは思っている。それが、ホウオウへと続く道なのだ。ぼくたちの知り得ないなにかしらの意味があるのだろう。


「また、おおきなきのこが増えてるな・・」


この間、坊主たちが採っていったばかりなのだが。
異様な成長率の高さに、此処の土壌が気になるところだが、そういった科学の手は加えたくないという町の総意から、此処は全くの未知の世界となっている。再三言うようだが、それで、いいのだ。


ふぅ、と息を吐いて塔を見上げた。それは、いつもと同じ厳粛な佇まいでそこに存在していた。

この塔にホウオウが降りるのは、いつのことだろうか。子供の頃からずっと想像していた。憧れという言葉では言い表せないほどの想いを、ずっと抱いてきた存在だ。ホウオウに選ばれたい、その一心で厳しい修行にも耐えてきたぼくを、ホウオウは知ってくれているだろうか。いや知らなくてもいい。そんなものなしで、ぼくは選ばれてみせるのだ。


色々な思いで頭の中がいっぱいになる。冷静になろうと、頭を左右に何度か振って、もう一度塔を見上げたところで、ぼくは違和感に気付いた。


空が、光っていた。

いや、空じゃない。


「塔の・・・頂上・・?」


塔の頂上の周りの空が、わずかに金色で染まっていた。

空も塔も、光るなんて普通じゃない。


ホウオウかもしれない。

その思い一つで、ぼくは走り出した。




____________________________

←BACK



←dream

←top
×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -