青い緑の繁る田舎町に降り立ったわたしは、程よく通る風を全身に受けながら思った。

田舎すぎわろた。

見事になんもない。さすがにゲームみたいに民家3軒と研究室だけということはないけれど、大差ない。片手で足りるだけしか民家ない。それに比べてやっぱ研究所デカいわ。なんなのこのアンバランスさ。もはやウツギ博士のための町じゃんここ。


まあうだうだ言っててもここの建造物の2/5がウツギ博士のものである事実は変わらないので、さっさとそのうちの一つである研究所に向かう。
お礼廻りもとい、記憶喪失のご挨拶だ。


セキュリティー大丈夫?そんなんだから盗難とかされるんだよ、とばかりに何の警戒も対策もされていないドアを開いて、真っ直ぐ進んだ奥の部屋でなにやら作業していたウツギ博士までたどり着いた。ここで私が鈍器でももってりゃ一発KOだぜ、ウツギさんよぉ…。もっとここは防犯に関して慎重になるべきだ。


「こんにちは、ウツギ博士」

「わあっ?!」


私が声をかけると、文字通り飛び上がって驚いたウツギ博士に、私の後ろに控えていたバクフーンが驚愕して一瞬背中の炎を吹き上げ、その炎が目前まで迫ったのであろうこの研究所唯一の助手さんが悲鳴を上げて手に抱えていた実験器具たちを取り落として、ガラス製のそれらがけたたましい音を立てながら割れる、という悲劇のピタゴラスイッチがものの数秒で完成した。
偶然にも最初のビー玉を転がす役目になったわたしは、ドキドキを隠せない。べ、弁償とか賠償とか言われたらどうしようドキドキ。


「き、キミは…もしかしてマコトちゃんかい?!」


どうしよう身バレしてる…
さらにドキドキが加速された。


「旅にでて以来何の連絡も無いから心配してたんだよ!噂ではいろいろ聞いていたけど…立派なトレーナーになったんだねえ」

「あの、」

「ん?」

「ウツギ博士は、私のことをご存知なんですね?」

「そりゃ、どういう意味だい?」


私の真顔を見たからか、再会を喜ぶ顔から一転、深刻そうな顔になったウツギ博士に、私は一通りのことを話した。
記憶が無いこと、もう一度ジョウトを一から旅し直そうと思ったこと、ポケモンたちのことは少し覚えてるということ。全部私が考えた設定。この世界で旅していく上で、矛盾の生まれないように考えた私のキャラだった。

話を聞けば聞くほどつらそうな顔になっていくウツギ博士をみながら、わたしはこの設定がなかなか使えるということを確信した。いいね、うまいこと同情ひけるっぽい。


「じゃあ、マコトちゃんはなにも覚えてないんだね…」

「この子たちのことは、少しだけ」


バクフーンを見ながら、苦笑する。
この子は、ウツギ博士に貰った子だ。ゲームHGの世界で、一緒に殿堂入りした旅の相棒。


「じゃあそのこは、もしかして僕があげた…」

「はい、そのようです」

「そっか…そっかあ…」


なんともいえない表情で、ウツギ博士は何度も頷いた。そりゃ何ともいえんわなあ。すっかり他人事である。


「だから次の旅は、この子の子供と一緒に辿ろうと思って」


そして繰り出すモンスターボール。
赤い光とともに現れるは、みんなのアイドル糸目のヒノアラシ!
例によってこちらも色高個体値でござい。


「! 色ちがい…!?」

「はい。…この子たちと、新しく旅をしていこうと」

「そうか…。……うん、旅をして、またいろいろなものを見ておいで。そしたら、自然と記憶も元に戻るさ」

「だと、いいのですが…」

「大丈夫。君なら、できるよ」


楽しんでおいで、とヒノアラシを撫でながら笑ったウツギ博士。
柄にもなくジーンとしたわ。いい人すぎるウツギ博士。
楽しんでくるよー!と決意を込めて大きく頷いてから、わたしはもう一つ重要なことを伝えなくてはと彼をみた。


「あと、ポケモン以外で一つだけ覚えていることがあるんです」

「それはなんだい?」

「…女の人が、笑ってたんです」

「それって…」

「その人は、ざまあみろっていいながら、笑ってた。それだけ、覚えてます」

「……マコトちゃん、その人がどんな顔だったとか、覚えてる?」

「わからないんです。ただ、声だけは……はっきり。」

「そうか……怪しい人物がいたら、すぐに知らせるよ。記憶につながるかも知れないし、なによりマコトちゃんの安全のためだ。」

「ありがとうございます……」



種蒔き完了。
鋭い顔つきのウツギ博士を見ながらほくそ笑む。

私も聖人君子じゃないからね。もし見つけたら、ただじゃおかないよ。


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