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先日森の中をさまよっていた私を保護してくれたお兄さんたちは、木炭職人だったらしい。木を切る作業にあのトリを使っているのだとか。…いや、トリだよね?木を切るならもっとほかに使うものあるでしょ?なんなんだろう、このトリもしかしてネギで木を切り倒すことができるのだろうか。だとしたらとんでもないトリだ。侮ってすまなかった。

とまあ冗談はさておき、そのお兄さんたちの話から想定するに、ここはポケモンと共生している世界です、と。

いやあ俄には信じられない話だよね、大丈夫みんなそうだと信じてる。で、これはなんだかヤバそうだという空気を察した私は、はじまった彼らのうちの子自慢を打ち切るように「ポケ、モン・・・・?」とさもなにもわからない女の子のように呟いた。
いや、ポケモン自体は知ってるんですけどね。けどそれはあくまでゲームの中だけの話というか、共生とか言われたらビビる訳ですよ。

で、何に関しても知らぬ存ぜぬな態度を貫き通していると、この木炭職人たちが下した結論。


ーー記憶喪失。


あまりにもこの世界で常識だと思われることに関して無知だったが故の結論だろう。

もちろん私としては、記憶を喪失しているつもりなんてこれっぽっちもない。つまりこれは、よくあるあれだったりするわけ?いや、よくはない。よくはないからこそ二次元を夢見る乙女たちが憧れているわけで。

ああもうつまるところ、わたしは、異世界トリップってやつを体験しているのではないだろうか、というのが現在の自分での見解だ。

まあ死んだ私が走馬灯のごとく都合のいい妄想を繰り返しているだけという鬱展開もあるにはあるけれどその可能性はあまり考えない方向で!あんまりにも目覚めが悪いじゃないか、いや死んだら目覚めるも何もないけどね、ははっこいつぁお笑い草だぜ。


「じゃあ君はなんにも覚えてないのかい?」

自分で自分に笑っていると、木炭職人の一人が話しかけてきた。

「なんにも・・・けどたぶん、名前はマコトです」

たぶんもなにも、私は五月雨マコトその人である。記憶喪失の振りも楽じゃない。

「マコトちゃんか・・バッグにはなにか手がかりになるようなものはなかったか?」

「バッグ・・・」


そういえば、私の肩にはショルダータイプのエナメルバッグが掛かっていた。
大した重みもないものだったから意識に入らず、今の今まで存在を気にしたことがなかった。嘘だ。邪魔だなぁとは思っていた。けれど現実世界でかつて自分が持っていたものと同じものだったから大した中身でもないだろうと高をくくっていただけだ。


まあしかし木炭職人に言われてしまえば広げないわけにはいかない。
チャックを開けて中にあるものを、とみてみても、見慣れた化粧ポーチ、財布、システム手帳、それから・・・あ。


「これ・・・」

「ああ!トレーナーズカードじゃないか!」

「とれーなーず、かーど・・・」

「トレーナーズカードっていうのは、トレーナーとしての身分を証明するものさ!」


まあ知ってるんだがね!名前とかプレイ時間とか冒険を始めた日付とか、はてはお小遣いの金額まで赤裸々にばれてしまうあれだろう。
ゲーム時に、トレーナーズカードの色を変えるためだけにいろいろとやりこんだのもいい思い出。


「って、ゴールドカード?!」

「え」

「これ、ゴールドカードですよ師匠!」

「・・・マコトさん、あんたすげぇトレーナーだったんだな・・・」


そのような尊敬のまなざし送られても困る。自分でもついていけない。ゴールドカード、は確かに私のトレーナーズカードだ。けれどそれはゲームの中での話で、え、これもしかして私の持ってたソフトと、データがちゃんとリンクしてたりするのか?


「・・・けど、やっぱり覚えていないです」

まだ記憶喪失の体(てい)で行こうと思う。そっちのほうがこの後のいろいろが楽そうだし不自然じゃないし。


「なら、とりあえずポケモンセンターに行こう!そしたらより詳しいデータを出してくれるはずだし、君のポケモンについてもなにかわかるかもしれないよ!」


ナイスだ木炭職人(弟子)!



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