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甥対叔父という歴史の内乱みたいな戦いは当然ながら私の勝利で幕を閉じた。いやあ、さすがにひよこちゃんには負けんわーかといってにわとりさんでも負ける気せんわー私強すぎるわー
負けたというのに晴れやかな顔をしているヒビキ君をみて、私は素直にすごいなあと思った。私だったらリセットしてるよ、大人って汚いね。
「やっぱマコトさんはつよいや!」
「ありがとう。けどヒビキ君も旅に出たばかりなのに、筋がいいと思うよ」
「ほんとですか?!」
「…たぶん」
なにせ比較対照はそこらへんにいるたんぱんこぞう達だから、ごめん正確にはわからない。
素直に自信のなさを暴露すると、ですよね、とさわやかに笑う。さすが主人公、器が違うぜ。
「あの、一つだけおねがいしてもいいですか…?」
そのさわやかな笑顔を、少しだけ困ったようなものに変えながらおねだりか。年上のつぼってやつをわかってるなヒビキ君。
「なに?出来ることなら、いいよ」
なんてことはおくびにも出さず、私は大人のお姉さんな対応をする。あんな色気むんむんな立ち絵のお姉さんにはなれるはずもないけれどそんなこと言わない。
「ポケギアの番号教えて下さい!」
ポケギア、ポケギアね。
「…ごめん、ポケギア持ってないんだ……」
「えええ!?」
……そういうのをすべての人類が持ってると思うな少年よ。すくなくともじっちゃんばっちゃんは持ってない人もいるだろう?わたしはそういう人たち寄りなんだ。決して私自身が老けているとかではなく、心的にね。じっちゃんばっちゃんの味方なんだよマコトさんは。
とか言ってみたけど、何で持ってないかってそりゃあヒワダに売ってなかったってだけだ。あそこ確かにそういう文明の利器の需要なさそう。ヤドンだけで生きていけてそう。
「いつか買おうとは思ってるんだけど…」
「そうなんですか…。それなら、コガネとかで買うのが一番だと思います。品ぞろえ良いし、安いし」
「そうなんだ。ありがとう。ポケギア買えたら、また番号交換しよう」
「…やくそくですよ!」
ちょっと不満げではあったけれど、その言葉に頷いて見せるとまた元の爽やかな笑顔を見せてくれた。
先を急ぐのだと言うヒビキ君を見送ってから、ふともう太陽が沈みはじめていることに気づいた。
そろそろ私たちも、ヨシノを目指した方がいいかも知れない。
そこらへんで元気にオタチとコラッタを燃やしているヒノアラシに声をかけて、わたしたちはまた西へ。
「しっかし、ほんとにゲームの世界なんだねー」
「ひの?」
「いやいや、こっちのはなしー」
腕の中で器用に小首を傾げるヒノアラシを撫でる。
ヒビキ君が旅に出たということは、ゲームはまだ始まったばかりということ。
だから何というわけでもないけど、まあラジオ塔事件にだけは巻き込まれないようにしておこうと思った。
「私たちはのんびりやろうね、ヒノアラシー」
「ひのっ!」
元気なのは可愛いので大変よろしいが、うっかり火達磨になってしまうので背中の火にだけは気をつけて下さいヒノアラシさん。
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