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私たちがひたすらオタチを狩っている間に、どうやら物語は始まったらしい。

すごい勢いでしゃべり続けているヒビキ君を見ながら、私は小さくため息をついた。

彼はゲーム通り、ワカバタウン出身の若きトレーナー。まだ今は旅に出たばかりのひよこちゃんらしいが、わたしは彼がとんでもない成長を遂げることを知っているからか、どうしても見上げてしまう。
しかし当の彼といったら。


「本当に憧れてて、何度も研究所にヒノアラシ見に行きました!こいつの兄弟がマコトさんのバクフーンなのかって思いながら!」

「そ、そっかぁ」

「だから僕、旅に出るってなったときにヒノアラシ貰えてすっごいうれしくて!それだけでもドキドキが止まらなかったのに、まさか本物に会えるなんて…!!」


初めてあったゲームの主人公に、手を握られながらこんな熱いこと言われてみろよ?戸惑うしか出来んわ。しかも相手は私のことと思ってるその人物、私じゃないから。いやまあ私だけど私じゃないというか。モラトリアムか。いいえただの二次元との分別です。


「えっと、ヒビキくん?」

「はいっ!」

「憧れてくれるのは嬉しいけど、あの、わたしは、いま…」

「記憶喪失なんですよね?」


知ってるんかーい。
一応、「知ってるんだ?」と聞くと、「ウツギ博士から!」との元気なお返事。口軽っ、あのおっさん。あんな辛そうな顔作っておきながらペラペラ話しすぎだろ。そういうプログラミングでもされてんのか。


「あの、そうなの。だから、わたしはあなたが憧れるようなそんな大層な人間じゃあ…」

「そんなことないっすよ!」


強い語調で遮られる。


「だって、そのヒノアラシだってすっごいなついてる!マコトさんは、記憶がなくたってやっぱりマコトさんなんですよ。だから、そんな悲しいこと言わないでください…!」


今にも泣きそうな顔をしたヒビキ君にたじろく。しょ、ショタを泣かせては全国のショタコンから殺される…!!あのお姉さま方は、ショタが自分もしくは自分の好きキャラ以外に泣かされることに関して非常に厳しい。わたし、今ここを見られたら問答無用で殺されちゃうよう。やめたげてよう。


「ごめんね、そうだよね。ヒビキ君はいっぱい憧れてくれたんだもんね」


ずずっと鼻を鳴らしながらこくりとうなずくヒビキ君。
あ、もうだめだこれはわたし死刑だわ。泣かせちゃってたわ既に。
ショタコンのお姉さまが見てませんように!今ここをみてませんように!私はただ祈ることしかできない。


「…ありがとう。ヒビキ君のためにも、がんばるよ」


私のためにもね!私、お姉さま方に殺される前にあいつだけはひどいめにあわせたいんだ!そしてまだ育成中のヒノアラシをせめてバクフーンに…!!色バクフーンに包まれてから死にたい!


「…おれも、強くなって協力しますから」


まだちょっとズビズビいいながらヒビキ君。

え、なになに何の話?バクフーン?あ、バクフーンの経験値になるために自分のポケモン差し出してくれるって話?それはふつうにありがたい。ぜひ。


「じゃ、お互いトレーナーなんだし。一戦、やらない?」


足下に控えてたヒノアラシを抱き上げて、ヒビキ君に見せる。経験値ほしさとかまさかそんな。

一瞬面食らったような顔をしたけれど、ヒビキ君はすぐに破顔して元気に返事した。


「はいっ!!」


そうともショタは笑顔が一番だとおもいます、まる。



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<解説>
*ヒビキ君…HGの男の子主人公。前話で???が“ゴールド”と呼んでいたのは、名前を知らなかったため


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