少女Aの回想
かつて、こんなわたしにもモテ期というものがありまして。
学校中で一番もらうチョコが多いというまさしくわが校のアイドルと言っても過言ではない幸村君に、告白されたことがありました。
しかしその時は形ばかりとは言いつつ仁王くんと付き合っていたので、それを理由に丁寧に断りました。
「ごめんなさい・・・今、付き合っている人がいるので」
「それって、仁王のこと?」
知っているんだ、と少々驚きながらもうなずきました。
すると幸村君はこれ以上ないくらいに顔をゆがめたのです。
「あいつは、やめたほうがいいよ」
「え・・・」
「俺なら、吉川さんのことちゃんと愛してあげられる。大切にしてあげる。あいつからもちゃんと守ってあげるから。・・・ね、俺にしなよ」
そういった幸村君の目はなぜだか私の背筋を粟立たせました。
底冷えのする何かを孕んだその視線に耐えきれず、私はあいさつ程度の断りの言葉を入れて足早にその場から逃げました。
それから何度か幸村君の視線を感じることはあれど、決して話しかけてくるようなことはなかったのでした。
あの時、あの手を取っていれば、少しは今と違う世界を生きていられたのでしょうか
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