少女Aの言訳


本当は、実は。すこし、ほんのすこしだけ、こんな風になればいいと思ったこともあったのです。

彼が私だけを見つめて、私のために怒ったり泣いたり苦しんだりしてくれるこんな状況に憧れたこともありました。ええ、この際だから告白しますとも。私は彼に愛されることを望んでいました。重く重く、動けないくらいに。
だからたぶん、私がまだ彼を好きなうちにこうなっていたなら、私はきっととてつもない喜びに包まれていたと思うのです。

けれど今はもう彼のことを愛しているわけではない、むしろ別れを切り出した身。
重荷以外の何者でもないのです。

私のことを虐めた女の子たちの髪の毛でいっぱいにしたビニール袋を片手に笑顔で私を見つめる彼が、いまはもうただただ怖い。

「に、おうくん…?」

「おまんを虐める奴らなんか、もうおらんからの。安心して、俺んとこ戻ってきんしゃい。俺、もうさびしゅうてたまらん。のう、春子、春子…」

「に、におうくん、ちょっとまって、落ち着いて…」


ガタガタふるえる自分の体を、抱きしめるように抱えながら、わたしは仁王くんと対峙していた。

こわい、こわい。
女の子に呼び出されたときとは段違いの恐怖。本格的な、死への恐怖を私は感じていた。


「春子……まだ、足りんかった?」

「…え?」

「もっと痛めつけなあかんかった?なあ、それなら次は」

──腕でも、もってくればよか?



その言葉を脳が知覚した途端、わたしは逃げ出した。




もう少しだけ、早かったら。

(少女は泣きました)


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