友人Aの懺悔


「ああ、またいつもの“彼女”か」と、最初はそう思っていました。

学校にいる誰よりも彼との交友が深いと自負しておりました私は、仁王くんの“彼女”というのがただの都合のいい女友人、最低な言い方をすれば広い意味での彼の慰み物であるということを嫌というほど知っておりましたし、それがいつになっても治らない悪癖であるということはもう分かっておりました。
“彼女”となる方は気の毒だが、彼がテニスでいいプレーをするのはいつもそういう存在がいるときだったので、見て見ぬふりという紳士にあるまじき行動をとっていたのです。

ええ、ええ、言われずとも深く深く反省しております。言い訳だと分かっておりますが言わせてください。

まさかこんなことになるだなんて思ってもみなかったのです。

今回の“彼女”は、今までとは少しだけ雰囲気が違った方でした。派手好きな仁王君には珍しく、おとなしそうな、そう、真田君と付き合っていても違和感がないといえばうまく伝わるでしょうか。そんな女性でした。たしかにかわいらしい方ではありましたが、仁王君の好みではないのではないかと思ったのを覚えております。


それが間違いであったと気付いたのは、例の彼女が仁王君に別れを告げたという噂が流れだした日から少しばかりたったある日のことです。

いつものように部活をして、帰ろうとした時。仁王君がなにやら忘れ物をしたのだと言って教室に戻っていきました。私と仁王くんは家の方向が一緒ということもあり、いつも帰路を共にしておりましたので、当然私は彼のことを待っておりました。
校門近くの街灯の下、しばらく経って戻ってきた仁王君の手にあったものを視界に入れた時、私はぎょっと目を剥きました。

それは、袋にいっぱいいっぱいに詰められたなにかでした。
私の目が、憶測が間違っていなければ、それは髪の毛でした。
色とりどり、多くの“誰か”の髪の毛でした。

「‥あ、の。それは・・・」

絞り出すように、問いました。自分でも笑ってしまうほど震えた声でした。

「ああ、これか?」

対して、仁王君は至極嬉しそうに答えたのです。


「おまじない、じゃ」


その言葉に付け足された、「…あいつが戻ってくるように」という呟きとも言えないくらい小さな小さな声を聞いてしまったとき、私は自らの間違いに気づくと同時に、激しい後悔に襲われました。こうなる前に、彼の友人である私が、止めるべきだったのです。

後悔先に立たずとはよく言ったもので。
今日も彼は、戻ってきた“彼女”とともに幸せそうです。


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