19


今日はテニス部も休みなので、彼はまだ教室にいる気がした。
私の目線よりも少し高い位置にある教室の窓を背伸びで覗くと、私は今日珍しく勘が冴えているらしかった。


「光」

「ん、ユキか」

「歌詞、作ったよ。メールで送る?手書きのルーズリーフでいい?」

「手書きでええ」

「じゃあ、これね」


鞄の中から、シャー芯ですこし汚れたルーズリーフを渡す。
細くてしなやかな指が、それを受け取った。


「おおきに」

「いえいえ。曲、聞かせてもらうって約束してもらったから」

「文芸部の主戦力から作ってもろた歌詞やから、ええのができるんとちゃうん」

「なにそれ、他人事みたい」

「はは、」


私が笑うと、彼も釣られたように笑った。先輩から生意気、毒舌、といわれる彼だけれど、こんな風に素直に笑うときもある。最初はもちろん私も、驚いたけれど。


「あ、せや、ユキ」

「ん?」

「トリックオアトリート。今日が何の日かは、知っとるやろ?」

「もちろん。さっきまで部活でパーティしてたもん。というわけで、はい。チュッパチャ」

「・・・面白んない」

「じゃあ、こっちからも。トリックオアトリート、光!」

「ん」

「ありがとー、って、これ私のやん!返すなや!」

「おー。大阪人っぽいツッコミや」

「・・・・なんだかんだいいながら、光もやっぱり四天宝寺生だよねって感じだよ」

「そらおおきに」

「あんま、褒めたつもりはなかったんだけど」


クスクスと年相応に笑う光が可愛くて、すこし居心地の悪い気がした私は手持ち無沙汰に横髪を弄ると、「じゃあ」と言って教室を出ようとした。荷物は肩に提げたままだったから、そのまま出るだけでよかった、のだけれど。

踵を返した私の頭を捕まえる腕のせいで、脱出は失敗に終ってしまった。


「・・なに、光」

「ん。なんとなくや」

「私、帰ろうと思ったんだけど」

「せっかくやから一緒に帰るで。ちょお待っとき」


そういって、彼は手を離し、どこかにおいてきた鞄を取りに席を立った。
顔を上げたことで見えた学ランの襟から続くイヤホンが、妙に艶やかだった。


「せや、ユキ」

「なに?早く鞄とってきなよ、って、」

「トリート。今はそれで我慢し」


そういって、光は行儀悪く足でドアを開けて出て行った。


我に返った私が真っ先に思いつくのは、赤く染まった彼の頬と、私の額に触れた薄い唇。
普通にアメをくれればいいものを、と、私はがらんとした教室で一人顔を覆った。



Happy Helloween!!!

⇒アトガキ

×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -