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「先生、いらっしゃいますか?」
私はどの先生に渡そうかとしばらく悩んだ結果、生徒からの評判がいいルーピン先生を頼ることにした。
こんこんとルーピン先生の部屋のドアをノックすると、「どうぞ」とあの優しそうな声で返事が返ってくる。
「失礼します」
「やあ、君か。どうしたんだい?」
「えっと、持ち主不明の落し物があって先生に届けに着たんですけど・・・先生こそどうしたんですか?」
なんというか、部屋が魔窟と化している。一言でいうと散らかっている。
けれど、それは掃除をしていなくて散らかっているというよりは、今現在散らかしている―たとえば、探し物とかで、だ―ような印象を受ける。
「いやぁ、杖をなくしてしまってね。多分校内にはあるんだと思うけれど・・・」
杖がないなんて相当困っているはずなのに、先生の雰囲気のせいなのか、あまり切羽詰っているようには思えない。先生のこの温いミルクティーみたいな空気は結構好きなのだけれど、もうちょっと焦ったほうがいいんじゃないかと思う。まあ、所詮他人事なのですが。
それに、落ちていた杖を丸一日ほうっておいた私が言える台詞でもない。
・・・そうだ。杖だ。
「先生。先生の杖って、もしかしてこれですか?」
ポケットから、拾った杖、件の落し物を出してみせる。
ルーピン先生は驚いたように一瞬目を見開いてから、嬉しそうにふんわりと笑って見せた。
「私のだ。ありがとう、すごく助かったよ」
「い、いえっ・・・」
「どこに落ちてた?やっぱりあそこでローブを脱いだときかな・・・」
「や、あの。えっと、うん。先生!」
「うん?」
「・・・手。・・離して欲しい、です」
「え、あ。・・・す、すまない!ちょっと気持ちが昂ぶって・・」
「いえ。・・じゃあ、私、失礼します」
スキンシップ激しい―本人曰く、気持ちが昂ぶっている―ルーピン先生というのは初めてで、特になんとも思っていないはずなのに顔が熱くなった。
顔がいいから、仕方ない。
そう心の中で念じながら、すぐにこの場から退出しようと頭を下げた。
「あ。ちょっと待って」
「?」
「お礼といっちゃなんだけど、紅茶。飲んでいかないかい?ハロウィーンはかぼちゃばかりで飽きちゃうだろう?」
「あー・・」
早く退出したいのは山々だったのだけれど、かぼちゃに飽きているのも事実、美味しいと評判のルーピン先生の紅茶を飲んでみたいとも思ってしまった。
早速とばかりに、先生も準備をしているみたいだし。
「じゃあ、いただきます」
「うん、ゆっくりしていきなさい」
先生の入れてくれた紅茶を飲むと、砂糖とも違う澄んだ甘さが口の中に広がった。
Happy Helloween!!!
⇒アトガキ