5
暗い廊下を歩き続けて、私たちはようやく鏡の前についた。
普段あまり人が通らない場所なだけあって、空気が埃っぽい。
レギュラーたちの中には、この場所に来ることすら初めての人もいるらしく、後ろからはその繊細優美な細工への感嘆の声が聞こえた。
「ここが件の鏡だよ。さっそく“ムコウガワ”に行こうと思うけど、もう帰りたいひとー」
「おるわけないじゃろ、大切な桐理を置いて帰ろうとするバカなんて」
「そういう発言よくないよ、におー。帰りたくても帰れない空気になったじゃん」
「分かった分かった、じゃあ帰りたい奴挙手せー」
そういって仁王が全員を見渡すが、だれも互いに顔を見合わせることなく、沈黙。
「・・ということじゃ。さっさと行くぜよ」
「じゃあちょっと待った。此処で個人的に帰って欲しい人がいる人きょーしゅ」
今度は私が質問を変えて皆に聞くと、なんと驚いたことに真田とジャッカル、仁王以外の全員の手が挙がった。
「ほー、じゃあまず丸井」
「なんつーか、ウザイから仁王に帰って欲しい」
「ふむ、におーに帰って欲しいと。じゃあ次、柳」
「仁王は邪魔になりそうだ」
「におーってば大人気。じゃあ幸村は?」
「場を仕切ってる感がイラつくから、仁王、」
幸村はそこで言葉を切って、自分の右手の親指で首を切る仕草をした。それ、クビってことですか幸村さん。
「というわけで・・・におー帰る?それとも柳生にも意見を聞く?」
「もう帰りたい・・けど帰りたくないぜよ」
「では、これからの行動を自粛してくださいね?」
「柳生、逆光眼鏡がこわいよ。におーがガクプルしてるよ」
「まったく、しかたがないなあお前達は。ほら、遊んでないでさっさと行こう?」
あんたが言うな、と思ったけれど口には出さない。だって幸村怖いのだもの。きっと他の人も同じ気持ちなのだろう、誰も何も言わなかった。
「・・じゃあ、あわせ鏡するよ」
ポケットから出した小さな鏡を、姿見に向ける。
鏡と鏡が向かい合って、そこに無限の道が出来上がった。と、同時に、怪談“踊り場の姿見”が発生して、その両方の鏡が光った。
「桐理!それで、どうするんだ?」
「私の後に続いて、姿見のほうに飛び込んで!」
“踊り場の姿見”の発生時間は1分。失敗すればまた合わせ鏡すればいいだけだけれど、また同じ場所につながるとも限らない。
私は急いで光る鏡の中に飛び込んだ。