私ともやもや
幸村先輩に言われたこと、何度も考えた。
授業を丸々2時間、ノートもとらずに過ごすくらいに沢山考えた。
それだけ熱心に考えて気付いたのは、あのときの仁王先輩やっぱりなんか変だったかもしれないという、昨日の先輩への違和感だった。
そもそも仁王先輩は、不愉快は顔に出す前に、はっきりとその原因を相手に告げるタイプの人間だ。私も、出会ってすぐの頃はその性格に随分と心を傷つけられた。今となってはいい思い出なような、そうでないような。
ともかく、そんな先輩の性格からすると、昨日の様子はやっぱり可笑しいのだ。
あのときの私は、そのどことなくはっきりとしない態度が怖くて思わず逃げてきてしまったけれど、多少の傷は覚悟で理由を聞いておくべきだったと今更後悔する。まさか次の日になって、「先輩昨日なんか怒ってました?」なんて聞けるはずもない。時は既に遅かりし内蔵助なのである。
思わず大きなため息が出てしまったところで、私は自分の前方を歩いている人物に気付いた。
「せんぱいー!」
「え?あぁ、向日葵ちゃんだ」
ほわんとした雰囲気を持つこの先輩は、大好きな幸村先輩の恋人であり、男子テニス部のマネージャー。すなわち、私が交流を持っている且つ大好きな先輩の一人である。私の中では、好きな人の好きなものは全部好きに分類されるのだ。もちろんのこと、仁王先輩も彼女のことを好きカテゴリに入れていることは確認済みだ。
そんな彼女は、図書室帰りなのか、何冊かの文庫本を腕に抱えながら、幸村先輩に似た優しい笑顔で私に話しかけてきてくれた。
「どしたの?ちょっと眉間に皺よってるよ」
「ちょっと悩み事があって・・。あ、そういえば、先輩はお菓子食べてくれましたか?」
「お菓子?」
ちょこん、と首をかしげる彼女。
あれ、おかしいな。
「昨日、仁王先輩に『皆さんでどうぞ』って渡しておいたんですけど・・知りませんか?」
「んー・・・?・・あぁ!あれかな?」
「あ、まさか、量足りなかったとか・・・?」
「ううん。結構沢山あったみたい。けど、あたしは食べてないな。というか、多分誰も食べられてないと思うよ」
そこまで言って、彼女はなにか面白いことを思い出すように、唇の端を持ち上げてにんまりと笑った。そのちょっと意地悪そうな笑顔も、幸村先輩とよく似ている。
「仁王がぜーんぶ一人で食べちゃってたの」
「彼も、独占欲強いよね」と彼女はまた笑う。
また胸のもやもやが増量。幸村夫妻は、人のもやもやを増やすのが特技らしい。
そしてもはやそのもやもやは、私一人では解けない大きな謎になりつつあった。
解けない謎は、答えを見なきゃ収まらない。
私は彼女にさようならを言って、2階の窓越しにテニスコートのを見た。仁王先輩は、どうやらこれから休憩らしい。
今日は学校中駆け回る日だな、と思いながら、私は階段を一段飛ばしで駆け下りた。