私と先輩2


「まあ座りなよ」

「座るって…どこに?」

「どこでも。そこのタンクの横とか、いいんじゃない?」


と言って幸村先輩が指したのは、タンクの横にある、幅の狭い2、3段の小さな段差だった。丁度タンクが日除け代わりになっていて、彼が言うように、座るのにピッタリな場所であることがわかった。


「掃除はしっかりしてるから、大丈夫」


別にコンクリートの汚さを懸念していた訳ではないけれど、先輩のその言葉をきっかけに、私はそこの2段目に座る。先輩は、一番上の3段目に座った。


「で、仁王の話だっけ」

「いきなり核心いくんですか」


ざっくり切り出した幸村先輩に、私は思わず胸を押さえた。心の準備もなにもできていなかったのだ。


「俺は、無い時間割いて、おバカな後輩の相手してやってるの」

「いくら感謝しても足りません」

「分かればよし。でね、向日葵。正直、君はもうちょっと自分を認めてやってもいいんじゃないかと思う」

「・・・自分を認める?」

「そ。自分の努力、ちょっとは信じてあげたら?」

「・・・」


自分の努力を信じる。努力とは、今まで遠まわしながらも自分なりに頑張ってきた、仁王先輩へのアピールのことだろう。
大して可愛くもない、駆け引き上手でもない私が、彼に近づけるようにとやってきた様々なことが、私の頭の中に渦巻いた。

私頑張ってる。それは認めてやってもいいと思った。
けれど、それが結果につながっているという証拠や確信が無い以上、私は努力を信じることは出来ないとも思った。


「・・・自分の努力に自信はもてない、って顔だね。じゃあさ、仁王のことも信じられない?」

「仁王先輩のことは何時だって信じています」

「即答か」


幸村先輩は、その王子様みたいに美しい顔をくしゃりと歪ませて、クスクスと笑った。そのまま彼は、「仁王ってば愛されてるなあ」なんてことまで言うもんだから、私は頬が熱くなる。


「先輩っ!」

「ふふっ、ゴメンゴメン。
 で、君が信じてるその仁王という人は、自分が嫌いだからって、相手が頑張って作ってきただろうものに文句を言うような人?」

「! それは・・・」

「もう一度よく考えてごらんよ。君が好きになったあいつのこと」

「・・・はい」


頭の整理がつかないまま小さく頷いてみせると、先輩は、今度は顔を歪めないふんわりとした笑顔をつくって、まるで小さい子にするように優しく私の頭を撫でた。私は幸村先輩の、こういう女性っぽい繊細さが大好きだ。


「それじゃあね、向日葵。次の授業はしっかり出ること」


先輩は重い鉄製のドアの取っ手に手をかけながらそう言うと、そのドアを開けて素早く屋上から出て行ってしまった。


胸のもやもやは昨日よりも数段ややこしくなった気はするが、幸村先輩に話す前まで感じていた悲しさは、不思議と感じなくなっていた。











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