私と先輩


さんざん泣きはらしたその次の日の昼休み。

私は人目も憚らず、愛してやまない大好きな先輩に泣きついた。


「先輩先輩先輩うわーん!」

「どうしたの、向日葵」

「先輩先輩、私もう生きていけません大好きです先輩ー!」

「全く話がつながってないよ。いつものことだけど」

「うぅ・・先輩はクールですね。いつものことですけど!そしてそんな先輩が大好きな私もいつものことですけど!!」

「で、どうしたの?」


私の話を聞いているようであまり聞かず、自分の質問をごり押ししてくるこの人は、幸村精市さんという。

幸村先輩は、私が心のそこから尊敬、敬愛している人であり、あの曲者ぞろいのテニス部を纏め上げている部長さんだ。実は、私は先輩と同じ小学校出身で、彼をリスペクトしている歴史は小学校2年生の頃からなのだが、先輩は多分そんなこと知らない。私も、そんなのどうでもいいことだから、知ってもらう必要もないと思っている。


「に、仁王先輩にき、きらっ、嫌われちゃいました・・・っ!」

「は?」

「だ、だから!仁王先輩に、嫌われちゃったんですってばぁっ・・」

「は、なにそれ面白い。詳しく聞かせてよ」

「面白いってなんですか!私は本気で悲しくて・・・」

「え、マジ泣き?ほら、ちゃんと聞くから、話して?」

「うー・・・」


幸村先輩は優しいから、私の話を聞いていないようでちゃんと聞いてくれる。けど聞いているようで殆ど聞いていないことも多い。あれ、結局どっちなんだろう。いや、けれどとりあえず優しいのだ、先輩は。現に今だって、思い出すだけで涙目になっている私の頭を優しく撫でてくれている。幸村先輩、大好き。



撫でながらも雰囲気で話すように促してくる先輩に、私は全部話した。


昨日お菓子を差し入れしたこと。

そのとき少し不機嫌な顔をしたこと。

以前に仁王先輩は甘いものが好きじゃないと言っていたこと。

仁王先輩に嫌われたとしたら、生きていけないほど彼が好きだと言うこと。


全部話したころには昼休みももう終わりに近くなっていて、先輩の休み時間を私の話なんかで台無しにしてしまったことを、今更ながら申し訳なく感じた。


「・・あの、・・・すみませんでした・・。先輩お昼ごはんも食べてない・・・」

「別にいいよ。けど、そうだな・・次の時間、サボっちゃおうか」

「は?!」

「うん、そうしよう。じゃあほら、早く。屋上行くよ」

「ちょ、ちょっとまって先輩!」

「早くしないと先生に捕まるかもしれないね」

「! 先輩ちょっと待ってー!」



慌てて、さっさと教室を出て行ってしまう先輩の背中を追いかけた。









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