私とお菓子



私と仁王先輩との接点は、部活だ。
しかし同じ部活の選手とマネというわけではない。私の所属する部活の都合上、何かと話題の多い男子テニス部に突撃することが多く、そのときに仁王先輩と関わることができるというだけだ。
仁王先輩は、あのクールな見た目に反して面倒見のいい先輩で、私がテニス部にお邪魔するときにはいつも私に構ってくれる。

それがたまらなく嬉しいわけだけれど、それはただ仁王先輩の人柄が良いだけなんだと知っている私は、そのことを恋のエネルギーに変えるだなんてことは出来ない。

私は先輩にとって、ただの後輩の1人に過ぎないのだ。


「あ、仁王先輩」

「向日葵ちゃんじゃ。またウチの部に用事か?」

「いえ、今日は・・・」

―仁王先輩に、お菓子を差し上げようと思って。


そう言おうとして、私は口を噤んだ。
深夜のラブレターなテンションでお菓子を用意してしまったが、仁王先輩はこんなものたくさんもらってるだろう。しかも、以前に甘いものはあまり好きじゃないといっていた気がする。大失敗である。

今更気付いた失敗に、どうしようかと視線を彷徨わせていると、先輩は心配げに「向日葵ちゃん?」と私の名を呼んだ。


「あ、はい。大丈夫です。あの、これ」

「?お菓子、か?」

「はい、いつものお礼にと思って。よかったら、テニス部のみなさんで食べてください。丸井先輩とか、お菓子好きですよね」

「丸井のぅ・・」


そう言った仁王先輩の顔がものすごく渋いものだったから、私はなにか地雷を踏んでしまったかと焦る。いや、まぁ、甘いものキライな人に甘いものどうぞっていう時点で不愉快なものはあるのだろうけれど。

けれど先輩の表情には、それ以外の理由がありそうで。けれど怖くてそこを深く追求はできない。恋する乙女は、表面上でもいいから仲良くしてもらいたいのだ。


「えと、お口に合わなかったら捨てちゃってください!」

「・・・いや、あいつは何でも食うから、そこに心配はいらん。・・・あんがとさん」

「いえ・・・あの、それじゃあ、よろしくおねがいします」

「ん。了解ナリ」


お礼を言ってくれるものの、その複雑そうな表情は相変わらずのまま、私と先輩はその場で別れた。





家に帰っても、先輩のあの表情が忘れられなかった。

少なからず、仁王先輩に嫌がられてしまった。
そう思うと、私はどうにも涙をこらえ切れなかった。

枕に顔をこすり付けて、ひっくひっくと嗚咽を零す。

私は要領が悪いのかもしれない。頑張ろうと思えば思う分だけ、空回りしている気がした。





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