あたしの緊張
あたしは友人に薦められ、普段は着ないようなふんわりタイプの服を買った。友人が言うとおり、それは精市の好きそうな服装だとは思ったけれど、それがあたしに似合うかどうかっていうのはまた別の話で、はっきり言って、丸い顔の輪郭がコンプレックスなあたしは、このような膨張色を多用した服は苦手だし、似合わないのだ。
けれど、せっかくの休みなのだから、精市には喜んでもらいたいし・・。
様々な葛藤の末、今日あたしはその買ったばかりの服を着て、精市との待ち合わせ場所である広場に立っている。
待ち合わせ時間の20分前。
いつも精市のほうが早いから、今日こそは、と頑張って早起きをした。髪も巻いて、うっすらだけどメイクもした。
中学生がなに頑張っちゃってんの、とお母さんには笑われたけれど、精神的に大人で妹にも優しいお姉ちゃんは、あたしを手伝ってくれた。このナチュラルメイクは、彼女がやってくれたのだ。
「あーもー・・ドキドキするなぁ・・」
ペッタンコのパンプスを履いて、意味もなくケータイを弄る。開いたり、閉じたり、メール作成画面を開いてみたり。なんとも落ち着かない。
「あれ?向日葵?」
下を向いていたあたしは、そんな風に自分の名前を呼ばれた気がして、顔を上げた。
丸井くんだ。その後ろには、ジャッカルくんと赤也もいた。
「ど、どもー・・」
「何何、いつもとイメージ違う私服だな。イメチェン?」
「・・・というか、気合バッチリなの」
「正直ッスね。・・ブチョーと?」
赤也が、興味津々とばかりに聞いてきた。否定することでも隠すことでもないので、素直に頷く。
「いーなーブチョー。こんなにかわいい彼女が、目いっぱいおしゃれしてくれるとか・・」
「あーあ。俺も彼女作るかなー」
「丸井先輩は、菓子が欲しいだけでしょ」
「色気より食い気だからな、こいつの場合」
「うっせー」
いつも通り仲の良さそうな三人に、どことなく緊張して落ち着かなかった心が静まっていくのが分かった。ムードメーカの名は伊達じゃないな、なんて感心してしまう。
「じゃ、俺達はそろそろ行くな。しっかり楽しめよ」
「ありがと、ジャッカル君。そっちもね」
まるで日曜日のパパのようになりそうなジャッカル君にも励ましの言葉を返して、彼らを見送った。
待ち合わせ時間まであと10分。
精市はまだこない。