あたしの反省会


あたしの恋人は、立海テニス部の部長で、とても優しい人。

どのくらい優しいかというと、休日彼の部屋に遊びに行ったものの、彼のベッドを占領して雑誌に夢中になった挙句うっかり寝てしまって枕に涎をたらしていても「まったくもう、しょうがないな」の一言で済ませてしまうくらいに優しい。

甘いと優しいの区別をつけるのが苦手なあたしだけれど、彼は本当に優しいと思う。駄目な所は、きちんと怒ったり窘めたりしてくれるから。


そんな彼は、もちろんあたしにとって本当に大好きで大切な彼氏さんなのだけれど、生憎と彼は多忙な人だ。
あたしも同じ部活に所属してはいるが所詮マネ。その忙しさは部長のそれとは比べ物にならない。たとえばあたしや真田くんが部活お休みの日でも、彼は事務作業に追われていたりする。

だから、あたしもわがままなんて言えない。本当は、お祭りとか、人気の映画とか。一緒に行きたいんだけど。

さっきもいったけど、彼は優しいから。もし休みたい日でも、あたしがそういえば無理して出掛ける準備をするだろうし、やることがあるなら、とても申し訳なさそうな顔をしてしまうだろう。
あたしは、そんな風に彼を困らせたくは無いのだ。

そう思うからあたしは、彼と一緒に行けない分、他の友達に誘われるまま外に出掛ける。


けれどそれが彼は気に入らないらしい。


「向日葵は、男心ってものを分かってない」

「うーん、ごめん?」

「はぁ・・・まあ、構ってやれない俺が悪いんだけど、さ」


男心なんて分かるはずもなく、なりゆきで謝ってみれば、おそらくそれがわかったんだろう精市が、ため息を零した。


「けど、丸井と二人でケーキ食べに行くなんて、ちょっとひどい」

「うん・・、なんかわかんないけど、ごめんね」


もう一度謝ってみると、精市は呆れの表情を苦笑に変えて、あたしのボリュームの無い髪をくしゃくしゃにする。精市は人の頭を撫でるという行為が好きらしくて、よくこうやって無遠慮に髪を乱していったりする。整えなおすのは少し面倒だけれど、こうやって精市に触られるのは好きだ。


「わかんないか」

「わかんない」

「向日葵は鈍感さんだもんね」

「そんなこと!・・・あるね」

「うん」


精市にはそのせいでいつも苦労させている気がするので、否定はできない。自分では分かっているつもりでも、どうやらあまり理解できていないらしい。


「仕方ない。そんな向日葵もかわいいから、許してあげる」


「仕方ない」っていう精市の顔は、いつも優しくて綺麗だ。
その顔を見るたびに、自分の悪いところを直そうっていう反省とまたそんな表情がみたいっていう邪な欲求とが心のうちで鬩ぎ合う。鬩ぎあっているうちに、また次の失敗を起こして「仕方ない」って言わせてしまうわけだけれど。


「うん、ごめんね。ありがと」

「じゃ、ゴメンのキスは?」

「はーい」


精市の頬に軽く唇をくっつけて笑えば、はいこれで反省会終わり。

ぎゅっとあたしを抱きしめてくれる精市に私も抱き返して、恋人タイムの始まりです。



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