呼び方について
昼休み。
もはや立海名物とも言うべき、尊と仁王の仲睦まじい二人は、いつものように一緒に昼食をとっていた。
方や、肉多めで茶色過多な弁当。そして方や、コンビニおにぎり一つという、どっちにもちょっと待ったをかけたくなるような食事をしながら、そういえば、とその茶色い弁当の方が口を開いた。
「『仁王くん』っていう呼び方、やめてくれん?」
「む?どうして?」
今まさにおにぎりを頬張ろうとしていた尊は、仁王のその言葉に首を傾げておにぎりを机の上に置いた。もちろん、おにぎりの包みの上にである。
「だって、なんか遠い気がする」
「遠い・・ねぇ。私は親しみを込めてるつもりなんだけどな・・・」
「待て。お前さん、確か丸井のことも『丸井くん』って呼んどらんかったか」
「だから、親しみを込めて・・・」
「まったく特別感がない!ちゅーか尊の中で、俺は丸井と同列なんか?!」
「まっさかー!」
ひらひらと手を振って否定するものの、息を巻く仁王には全く届いていない。
尊としては、呼び方なんてどうでもいいじゃないという男気溢れる考えなのだが、仁王のほうはそうではないらしい。
この立海名物は、男女の考えが一般に言われる恋人と逆転することがままある。今回もそのパターンのようであった。
「ま・さ・は・る。ほら、呼んでみんしゃい」
「・・・え、今?」
「今!」
「・・・・・・・ま、・・仁王くん」
「なーんで言い直したんじゃぁぁぁ・・・!」
「だって、クラス中がこっち見てるよ。仁王くんが大きな声出すからだよ。・・・っていうか今更呼び方変えるとか恥ずかしい・・・」
「恥ずかしがる尊もすげーかわいいけど!一回、一回でいいから」
「・・・まさ、」
「・・・」
「・・・・まさ、はる」
「!」
その日3−Bでは。
恋人の名前を言い切ったと同時に、恥ずかしさで真っ赤になってうつむいてしまった尊と、そのあまりの愛おしさに、思わず恋人をぎゅうぎゅうに抱きしめる仁王少年の、少女マンガもビックリな甘酸っぱい、むしろ砂糖飽和な光景が見られたという。
(尊超かわいい)(も、恥ずかし・・にお、・・・まさはるのアホー)((超 か わ い い ん じ ゃ け ど!))