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『あのね、仁王くん。ここから真剣な話で、今まであんまり言ってこなかったけど、私って結構変な人間でね』
「結構変なことは知っちょる」
『話の腰を折らないで。でね、私、実は違う世界の人間なんだ。だから、幽体離脱くらいありえるんだよ、きっと』
「・・・・・・許容範囲オーバーじゃ。は?違う世界じゃて?」
『そうなの』
「・・・・尊が?」
『そう。この世界に来て、すぐ立海に編入して、それで、仁王くんに会った。
こんなの気持ち悪いかもしれないけど、私、仁王くんのことがすごく好き。大好き。だから、嫌ってほしくないな、なんて・・・』
肝心なところで淡白だったり、大雑把であったりする尊だが、今回ばかりはきちんと内容に見合った態度であるらしく、目をあわせられない、語尾にいくにつれて声が小さくなっていく、等の不安の気持ちが見て取れた。
そんな彼女の頬に、仁王は両手でそっと触れて、
思い切り左右に引っ張った。
『い、いひゃいっ!っへか、はわれんの?!』
「うっさい!まずはさっさと体にもどりんしゃい!話はそれからじゃ!」
彼には珍しく声を荒げて尊を引っ張ると、ベッドの傍まで来ると彼女の半透明な体を抱き上げて、そのままベッドの上の眠っている方の身体へと落とした。
その間、五秒にもみたない早業。
落とされたほうの彼女は、何が起こったのかいまいち理解できないまま実体のほうへと吸い込まれ、数秒後には本来あるべき姿となってぱちりと目を開いた。
実際に痛みはないが、「落とされた」という認識によりどこか痛めた気がする。
そんなそこはかとない怒りを感じながら、尊は勢い良く飛び起きた。
「な・・・なにすんのさ、仁王くん!」
「うっさい。お前さんにそんな大きな隠し事されたんがショックじゃったし、俺が尊のこと嫌うかもしれんなんて発想をされたのも悔しい」
「・・・なんで泣くの、仁王くん」
「泣きたいからじゃ」
「・・・すごい綺麗に泣くんだね」
「流石じゃろ。詐欺師に死角はないナリ」
「うん、流石。綺麗過ぎて、笑っちゃうよ」
鳴き声も嗚咽もなしで、ただ目尻から雫を零すだけの仁王の泣き方に、尊は小さく笑った。理由は無かったが、あえて言うなら綺麗過ぎたのだ。
「俺は、尊のこと好きじゃ。愛してるっていっても言いすぎじゃない気がするくらい、好きじゃ。
そんな俺が、お前さんのこと嫌いになると思うんか?」
まだ涙の残る顔で、仁王はまっすぐに尊のことを見つめた。
詐欺師と呼ばれる自分の気持ちがただ一つ真っ直ぐに向かうのは、尊だけ。その気持ちを疑って欲しくは無かった。もっともっと自分のことを信じて欲しかった。
色々な思いや欲求が心中に渦巻いて、言いたいことはいろいろあったが、仁王は上手く口に出来なかった。言えなかった残りは涙になった。
そうした仁王の思いを全部受け止められたわけではないが、それでも尊は頷いた。
「思わない。・・仁王くんは私のこと、ずっと好きで居てくれる」
「そうじゃ」
「ごめんね、仁王くん。・・・ありがとう」
「どういたしまして。お礼はラヴで結構」
そうして、二人は互いにつられるように笑った。
仁王の言葉が、想いが、笑い合っている今が、その全てが嬉しくて、笑いながら少しだけ泣いてしまったのは、尊だけの小さな秘密である。