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『コートの上の詐欺師』なんて異名を持つ仁王は、今日も今日とてテニス部の練習に駆り出されていた。


「(まったく…春休みじゃっちゅーのに、なんて仕打ちじゃ。)」


この春休みが過ぎれば、彼らは晴れて中学三年生となる。
自分達を主役に大会が開かれることに悪い気はしないが、休みは休みできちんと取らせて欲しい、というのが仁王の思いだ。



早起きに少しイライラしながら校門をくぐる。

今朝の練習メニューは何だろうか、ラケットに触るものがいいな、などと考える仁王の肩を、控えめに叩く手があった。


「あの…すいません。」

「ん?なんじゃ、……っ?!」


彼は、振り返って固まった。

振り返った先にいた少女に、仁王は心臓を抉り取られたかのような錯覚を覚えたのだ。


「(なんじゃ、この娘…!)」


短く切り揃えられた髪、すらりと伸びる長身に細い四肢。
髪と同色の長めの睫毛に縁取られている、甘さと冷淡さを兼ね備えた瞳が、真っ直ぐに仁王を見ていた。


「…あの、職員室は何処でしょうか。案内板を見つけられなくて…。」


血管が浮き出るのではないかというくらい白い肌の顔に、少しばかりの困惑を浮かべた少女は、申し訳なさそうに言う。


「(転入生…かのぅ?)」


私服で職員室を探す自分と同い年くらいの少女を観察し、仁王はそう推理する。
しかし、先ほど彼の胸を襲った稲妻のような衝撃は収まらないままだった。
心臓は未だバクバクと高鳴って、顔まで火照ってきている。


そんな仁王の様子が不安を煽ったのか、少女が更に申し訳なさそうな顔で頭を下げた。


「ごめんなさい…迷惑でしたよね。すみません、もう少し自分で頑張ってみます。お邪魔してごめんなさい。」

「ちょ、ちょっと待ちんしゃい!」


謝罪の言葉を並べてすぐに立ち去ろうとした少女を、仁王は慌てて引き止める。


─ こんな運命の出逢いを逃してなるものか!


仁王は、先ほどの己を襲った衝撃が、俗にいう“一目惚れ”であるのだと直感的に推理した。

だから、この絶好の機会をフイにして少女を逃してはいけない、と。



「案内、しちゃるよ。お前さん、名前は?」

「あ、ありがとうございます!私、立花尊って言います。」

「俺は仁王雅治じゃ。よろしくの、立花サン。」



彼のその判断は正解であり、実はこの時相手の少女も彼へ普通でない好意的な感情を抱いていたのだが、互いがそれに気付くのは、仁王がその後怒涛の勢いで彼女にアプローチし、見事恋人という関係が成り立った後の話である。











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