仄灯りの漏れるドアの前に立てば、店内は海兵たちで混み合っているようだった。此処に自分が入ればどうなるか、スモーカーに想像できないわけがなかったが、しかしだからといって、入らないわけにもいかなかった。


「ねーnameちゃん、いい加減付き合ってよ」
「今カレシ居ないんでしょ?」
「ダメよ、貴方達いつとも知れない命じゃない」
「そんなことないよ!オレたちこう見えて強いんだぜ?」
「そうそう!」
「ねね、待つのがイヤなら一晩だけでもいいんだ」
「一晩のアバンチュールみたいなね!?」

海兵たちに囲まれてnameは苦笑していた。今日はいつにも増して口説きがしつこい。適当にあしらっても、次から次へと声が掛かる始末。彼らは口々にnameの容姿を褒め、性格を褒め、料理を褒めた。世の女性が羨むようなプレゼントを手渡した。宝石、洋服、舶来の砂糖菓子。しかしそのどれも、nameの気を引くことはできなかった。nameが待つのは、そんなまやかしのきらびやかさではない。

「テメーら、よくそう寒々しい台詞が吐けるな」

その声に、騒いでいた海兵たちが一気に青ざめ、一斉に振り返った。

「ス、スモーカー大佐!!!!!」

その声に目を見開き、nameは立ち上がった海兵たちの敬礼している隙間から見慣れた煙を見つけ、息を呑んだ。

「別に俺ァテメーらがたまの楽しみに何しようが知ったこっちゃねえがな、断ってる一般人相手にそんな馬鹿げた遊び方されちゃあ、なァ」
「スミマセンでした!!!!!!!!」

カウンターに進むスモーカーに海兵たちは道を開ける。静まり返った店内。カウンターの内でワインのボトルを抱いたまま固まったnameに、彼は青筋を立てたままオーダーした。

「コーヒー」



「夜にいらしたこと、なかったでしょう。だからまさか本当にあなただなんて思いませんでした」
「のんびり一杯やって帰る連中より、俺は仕事が多いんだ」
「そう、大佐様ですものね。驚いちゃった。知らなくって沢山無礼を働いてしまいましたわ。ごめんなさい、大佐」
「茶化すな。……スモーカーでいい」

nameがクスクス笑いながらスモーカーへウイスキーを出すと、彼はあからさまに顔を顰めた。

「頼んだのはコーヒーだが」
「でも、夜だから……もちろん、下戸ならコーヒーをお淹れしますけど」
「ああ、あァ、もうこれでいい」

スモーカーの手の中で、氷がカランと小気味良い音を立てる。店はようやく多少騒がしさを取り戻したが、海兵たちの話の種は、nameとスモーカーの親密さだった。無論、二人はそれに気づいていたが、酒も手伝ってもう面倒になって、普段の『営業時間外』の距離に落ち着いた。

「しかし……」
「はい?」

スモーカーは目の前のnameの変わり映えに内心驚いていた。昼はさらりとしたワンピース一枚で髪を下ろして薄化粧のnameが、今は薄いブルーのロングドレスを着こなし、髪を上げ、しっかりと化粧をしている。それだけでも随分と変わるものだが、さらには纏う雰囲気まで別人のようである。海兵たちが虜になるのも頷ける変身だ。それが……好ましいような、憎らしいような。

「いや、変わるもんだな、と思っただけだ」

好ましいか好ましくないかは言わず、スモーカーは短くなった葉巻を灰皿に押し付けた。新しいものの先をカッターで切る。微笑んだnameがマッチの火を差し出すので、それに甘んじた。

「変わりますよ。女ですから」
「そういうモンか?」
「たしぎさんだって変わるでしょう」
「あれのそういうのは見たことねェな」
「あら。でも、大佐は色んな海を回ってらっしゃるから」
「あァ?」
「沢山見てきたでしょう?そういうヒト」

nameが挑戦的にスモーカーを睨んできたので、スモーカーもわざとらしく葉巻の煙を吹きかける。

「nameほど変わったのは見たことねェな」
「なら」

nameが、スモーカーの葉巻を奪って灰皿に押し付け、けらけらと笑った。

「どっちの私が好みです?」

 

 

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