いつか星が墜落するまで
「これで何回目だっけ?」
「今月に入って8回目」
向き合った私たちは現在、七並べの勝負中で、「寧々ちゃん、ハートの8出してよー」とけらりと彼女は笑っている。
私の数少ないともだちは、私の幼馴染と付き合っている。二人の距離感はよくわからない。付き合い始めた時は「おめでとう!」という気持ちよりも「ふ、二人が!?」という気持ちの方が大きかったけれど、段々「お似合いな二人だな」と思うようになったかと思えば、いきなり別れた。「なんで別れたの」と私が聞くと、彼女は「ひとりが好きだから」と教えてくれた。どうやら振ったのは彼女からだったらしく、振られた直後の類は死人のようだった。類があんなに落ち込むなんて……と思っていたら、数日後にまた二人は付き合い始めていた。彼女は「なんで付き合ったの」と私が聞くと、「類くんが死んじゃいそうだから」と教えてくれた。類はいつもより楽しそうで、いつもより高く司を飛ばしていた。
そんなことが数ヶ月の間で何度も続いている。
「なんで類と付き合ったり別れたりするの?」
私がハートの8を出すと、「寧々ちゃん、ありがとー」とゆったりした声とともにスペードの5が出される。そこはハートの9じゃないの。私はそれに対して特に何も言わず、スペードの4を出した。
「人付き合いが、苦手なんだよね」
彼女はクローバーの8を出す。その声は先程私の名前を呼んでいた声とまったく同じトーンで、私も「そっか」と特にトーンを変えずに答える。
「寧々ちゃんはともだちで、類くんは恋人って名前がつくけど、じゃあそこの違いってどこにあるのかな。類くんとはキスもセックスもするけど、寧々ちゃんとはしていない。そういうことが関係しているのかな」
直接的な言葉がさらりと彼女の口から出た。知人の恋愛事情を知り、ひとり気まずくなる。それに気がついていない彼女は、そのまま言葉を続ける。
「口約束に、意味はあるのかな。どこまでが恋人じゃなくて、どこからが恋人なんだろう?」
彼女は、コミュニケーションが苦手だ。人との距離感が掴めなくて、うまく喋ることもできなくて、大勢の人がいるところは嫌いだという。
彼女と私はいま、保健室のソファに座っている。ソファは薄い緑と薄い紫色がふたつ、向かい合わせになっていて、そこの間に机が一つ置かれている。その上にはトランプが並べられている。彼女は薄紫色のソファの上で、体育座りをしている。その姿は、あまりにも小さい。
私と普通に話せて、保健室の先生とも普通に話せて、類とも普通に話せて、でも教室では私の声も類の声も聞こえなくなるらしい。ごちゃごちゃとすべての音が混ざって、うまく呼吸ができなくなるらしい。友人とクラスメイトの境界線がわからない、とよくぼやいている。
彼女は私が好きだという。「寧々ちゃんの距離感が、落ち着くの」と笑う。私も、彼女が大好き。私たちの距離感は程よいから。それはきっと、私と類との間にあるものと同じで、そして彼女と類の間にあるものと同じだった。類はきっと、彼女との距離感に我慢できなくなった。もっと近寄りたい、もっと触れたいと思ったのだろう、と私は予想する。でも、彼女は、他人との距離感を何よりも気にする。自分のテリトリーを意識して、人の気持ちを意識している。二人の関係が複雑な理由は、きっとそこにある。
「類くん、わたしが『別れたい』って言うと、いつも死にそうな顔するの」
きっと彼女もわかっている。人の顔色と視線が、彼女には過剰なほどよく見えている。類の想いに気がついて、でも自分の想いと折り合いをつけられないでいる。
私はそれに対して何も言えずに、「……次、出して」と一言言うだけだった。
「おや、二人とも、ここにいたんだね」
彼女がダイヤの3を出したところで、保健室のガラリと扉が開いて、類がやってきた。「類」「類くん」と私たちの声が揃う。
「いま寧々ちゃんと七並べしてるの」
「へえ、楽しそうだね」
類は当たり前の顔をして、彼女の隣に座った。彼女もそれに対して何も言わない。
「類くん、次どれ出せばいいかな」
「これとかどうだい?」
その距離は友達とも恋人ともとれるような距離で、彼女はどちらがいいんだろうと私はぼんやり考えた。

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